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決まった位置にセロトニン神経が形成されるメカニズムの一端を解明 ~ウニ初期胚を用いた研究から~

2016/05/10

研究成果のポイント

1. 2つの転写因子FoxQ2とHomeobrain (Hbn)がセロトニン神経形成の鍵となる因子であることを発見しました。

2. 神経外胚葉という“場”の形成に必要なFoxQ2が、場の決定後、古典的Wnt経路により除去されることがセロトニン神経分化に必要であることを発見しました。

3. セロトニン神経分化に必要なHbnがNodal経路と非古典的Wnt経路により、神経外胚葉の背側領域にのみ限局させられることで、最終的なセロトニン神経分化の位置が決まることを発見しました。

概要

筑波大学生命環境系・下田臨海実験センターの谷口俊介准教授と日本学術振興会特別研究員(RPD)の谷口順子、竹田典代研究員(現 東北大学浅虫海洋生物学教育研究センター助教)、および稲葉一男教授は、バフンウニを研究材料として、2つの転写因子FoxQ2とHbn、およびそれぞれの発現を制御するWntとNodal経路の協調的な働きが、セロトニン神経の正確な分化位置を決定していることを明らかにしました。

新口動物のいくつかの種では、多くの細胞はもともと神経外胚葉になる細胞運命を持っています。通常の発生過程では、この神経外胚葉は体の前端部の狭い領域に限局され、さらに個々の神経細胞の分化に伴って細かくパターニングされることで正常な構造体(脊椎動物あれば“脳”)として成り立ち、機能します。たったひとつの細胞である受精卵から数えきれない数の細胞で構成された体をかたちづくる過程で、胚の前端部にある神経外胚葉を正確にパターニングするメカニズムを完全に理解するためには、まだまだ多くの実験データを積み上げる必要があります。

本研究で用いたウニ胚では、神経外胚葉全ての細胞がセロトニン神経に分化する能力を備えていますが、正常発生下では、神経外胚葉の背側領域においてのみセロトニン神経が分化してきます(図)。セロトニン神経はヒトを含むほとんど全ての左右相称動物が持っている神経であり、その分化様式や進化の完全解明には数多くの生物を巻き込んだ研究が必要になってきます。本研究の成果により、受精卵から細胞数が増えていく過程において、放っておけばセロトニン神経へと決定される細胞運命を、体の前端部/背側領域のみに限定するのに必要な細胞外部からの情報システムが明らかになりました。今後、他の動物においてセロトニン神経を適切な位置に適切な数だけ分化させる仕組みの情報が蓄積するにつれて、セロトニン神経が動物界に登場してどのような進化過程を経て現存する動物の中で神経としての役割を果たすようになってきたのかを理解することにつながっていくと思われます。

※本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金・基盤(C)(課題番号25440101、研究期間:平成25−平成27年度)および武田科学振興財団・生命科学研究奨励(平成22年度)の助成を得て実施されました。

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図 ウニ胚発生における神経分化の模式図

正常発生(上段)においては、セロトニン神経は胚の前端部/背側領域にのみ分化するが、細胞間の情報伝達を阻害した胚では体のほとんどの細胞がセロトニン神経へと分化する。

掲載論文

【題 名】Cooperative Wnt-Nodal signals regulate the patterning of anterior neuroectoderm  (WntとNodal経路は協同で前端部神経外胚葉のパターニングを制御する)

【著者名】谷口順子、竹田典代、稲葉一男、谷口俊介

【掲載誌】PLOS Genetics (DOI: 10.1371/journal.pgen.1006001)

【掲載日】2016年4月21日

問合せ先

谷口俊介 筑波大学生命環境系 下田臨海実験センター 准教授

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