生物・環境
海洋酸性化で生態系の多様性が失われ微細藻類が海底を覆いつくす
(Copyright - Nicholas Floch)
ハーベイ ベンジャミン 助教
二酸化炭素の増加によって引き起こされる海洋酸性化は、海洋の炭酸系に影響を及ぼし、海藻の海中林やサンゴ礁よりも、微細藻類の生育に適した環境へ変化させる可能性があります。このような変化が進むと、環境の多様性や複雑性が損なわれ、人類にとっての生態系の価値が著しく低下します。
伊豆諸島の一つである式根島のCO2シープ(海底から二酸化炭素が噴き出す海域)では、二酸化炭素濃度の勾配が生じていることから、本研究では、この海域の海底付近における生物相、環境パラメーター(pHおよび溶存酸素)の調査、生物付着板を設置した現場実験、海底の生態系を実験室下に再現した試験を行いました。その結果、海洋酸性化によって微細藻類の生育が促進され、増加した微細藻類によって他の生物種の加入が妨げられることで、生態系の構成の変化(遷移)が停止することを突き止めました。高二酸化炭素濃度の環境下では、微細藻類は海底を覆いつくし、マット状になって多量の堆積物を吸着します。その内部では、微生物群集の活動により酸素濃度やpHが低下し、他の生物種の加入や成長を阻害する障壁となって、元の状態に戻りにくくなります。これは、サンゴや大型藻類など大型の生物種にとっては致命的です。微細藻類がもたらす環境の変化は、生態系の遷移過程に対してさらに影響を及ぼします(フィードバックループ)。このような仕組みは、様々なレベルでの環境変化に対して閾値を踏み越えた生態系の安定化を説明するものであり、沿岸生態系の価値を守るための適応戦略に組み入れることが求められます。
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プレスリリース研究代表者
筑波大学生命環境系ハーベイ ベンジャミン 助教