生物・環境

ハサミムシ類のハサミや子育ての特徴が形成された進化過程を解明

研究イメージ画像
 ハサミムシ目全11科のうち、8科の発生過程、生殖に関わる行動を詳細に検討するとともに、先行研究との比較を行いました。その結果、ハサミムシ目は多新翅類の一群であり、腹端のハサミや、卵や幼虫に対する手厚い世話などの特徴は、進化の過程で、目内で並行的に現れてきたことが分かりました。

 ハサミムシ目は石の下などでよく見られる身近な昆虫で、黒々とした腹端にハサミを持っています。分類的には、昆虫類の進化を考える上で重要な、多新翅類というグループに属すとされていますが、多新翅類への帰属や多新翅類内での位置付け、また、ハサミムシ目内の科間の類縁関係についても、研究者間でのコンセンサスは得られていませんでした。最近、大規模な分子系統解析により、ハサミムシ目が多新翅類であることや、多新翅類内の位置付け、目内の類縁関係が明らかにされつつありますが、発生や生殖などに関わる生物学的な情報を伴わない進化の理解は、極めて表面的なものといわざるを得ません。

 そこで、ハサミムシ目のほぼすべての科について発生ならびに生殖に関わる生物学的特徴を検討し、さまざまな観点から比較を行いました。その結果、ハサミムシ目が多新翅類の一群であること、最新の分子系統解析が示唆する、従来の理解と大きく異なった目内の系統関係の妥当性が示されました。これらのことから、ハサミムシ目の大きな特徴である「腹端のハサミ」、ハサミムシ目の重要な行動様式であるとされてきた「母親の卵や若齢幼虫への手厚い世話」は、目内で並行的に現れてきたことが分かりました。

 ハサミムシ目の中には、今回の研究対象に含まれなかったグループや、系統性が明確でないグループが残されています。今後、このようなグループの検討も行い、ハサミムシ目、ひいては多新翅類、昆虫類の系統学的な理解を進めていきます。

PDF資料

プレスリリース

研究代表者

筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所

町田 龍一郎 客員研究員

筑波大学附属高等学校

清水 将太 教諭

掲載論文

【題名】
Development and reproductive biology of Dermaptera: a comparative study of thirteen species from eight families.
(ハサミムシ目の発生と生殖生物学:8科13種の比較から)
【掲載誌】
Arthropod Systematics and Phylogeny
【DOI】
10.3897/asp.82.e96452

関連リンク

  1. 山岳科学センター菅平高原実験所
創基151年筑波大学開学50周年記念事業