生物・環境

多足類の卵巣に定説とは異なる構造的多様性を発見

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 ヤスデ類の一種であるヤマトタマヤスデの卵巣形態を詳細に観察・検討し、本種の卵母細胞を覆う細胞層に、これまで多足類での存在が否定的であった構造的多様性を発見しました。先行研究との比較を踏まえ、多足類の濾胞上皮では進化の過程で細胞の代謝活性が低下してきたとする仮説を提案しました。

 卵巣は卵のもとである卵母細胞を産生する器官です。卵巣内における卵母細胞は濾胞(ろほう)上皮という体細胞層に覆われており、卵母細胞の成長に重要な働きを持つことが知られています。特に、昆虫類の濾胞上皮は、卵母細胞の成長に対して異なる役割を果たすいくつかの領域に分かれるといった特徴的な「構造的多様性」があり、高度に多機能化しています。一方で、昆虫類以外の節足動物である鋏角類(クモやダニの仲間)や多足類(ヤスデやムカデの仲間)、甲殻類(エビやミジンコの仲間)の濾胞上皮からは、構造的多様性は見いだされておらず、とりわけ、多足類については、多くの種で濾胞上皮が均質な構造であることから、濾胞上皮内の構造的多様性はないとする見解が一般的でした。

 本研究では、ヤスデ類の一種であるヤマトタマヤスデの濾胞上皮を、透過型電子顕微鏡や組織化学的手法を駆使して詳細に観察・検討しました。その結果、本種の濾胞上皮は、ミトコンドリアや粗面小胞体など細胞小器官を多く備えた代謝活性の高い領域と、それらがほとんど認められない活性の低い領域に明確に分かれており、これまでの知見とは異なり、構造的多様性を持つことを発見しました。さらに先行研究との比較から、多足類の濾胞上皮の構造は種によって 3 タイプに分けられ、これらの系統学的位置から、進化の過程で細胞の代謝活性が低下してきたとする仮説を提示しました。

 本成果は、従来の卵巣形態学の定説とは異なり、濾胞上皮の構造的多様性が昆虫類のみが持つ特徴とは限らないことを示唆しています。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学生命環境系

八畑 謙介 講師

千頭 康彦

生命環境科学研究科生物学専攻博士前期課程(研究当時、現:静岡大学理学部日本学術振興会特別研究員)

掲載論文

【題名】
The structural and functional modularity of ovarian follicle epithelium in the pill-millipede Hyleoglomeris japonica Verhoeff, 1936 (Diplopoda: Glomerida: Glomeridae)
(ヤマトタマヤスデにおける卵巣濾胞上皮の構造的・機能的領域化)
【掲載誌】
Tissue and Cell
【DOI】
10.1016/j.tice.2024.102372

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