医療・健康

コーヒー由来成分「トリゴネリン」のマウスでの認知機能改善効果を発見

研究イメージ画像 (Image by Maria Hassan DPE/Shutterstock)

 コーヒー由来成分の一つ「トリゴネリン」に、老化促進マウスにおける空間学習(空間内での自分の位置の認識)および記憶の改善効果があることを見いだしました。また、この効果は、脳の神経炎症の予防および神経伝達物質レベルの回復によって生じることが示唆されました。

 近年、加齢に伴う認知機能低下を改善する機能性天然化合物の探索は、健康的な老化を実現するための重要な研究課題となっています。コーヒーに含まれる成分の一つである「トリゴネリン(TG)」は、フェヌグリーク種子、大根等にも含まれる植物性アルカロイドで、認知機能改善効果が期待されています。そこで本研究では、自然発症老化促進モデル(SAMP8)マウスを用いて、TGの記憶と空間学習(空間内での自分の位置の認識)に及ぼす影響を、認知・分子生物学的側面から統合的に検討しました。


 SAMP8マウスにTGを30日間経口投与後、モリス水迷路試験を行った結果、TGを投与しないSAMP8マウスに比較して、空間学習記憶能が有意に改善されました。その分子メカニズムとして、海馬の全ゲノムトランスクリプトーム解析を実施し、神経系の発達、ミトコンドリア機能、ATP合成、炎症、オートファジー、神経伝達物質の放出に関連するシグナル伝達経路が有意に活性化されていることを見いだしました。さらにTGは、シグナル伝達因子Traf6を介した転写因子NF-κBの活性化をネガティブに調節することにより、神経炎症を抑制し、神経伝達物質の放出に関連する経路を活性化することが分かりました。また、タンパク質定量解析により、海馬領域において、炎症性サイトカインTNFα、IL-6が有意に減少し、神経伝達物質であるドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンが有意に増加することを確認しました。以上のことから、加齢に伴う空間学習記憶障害のTGによる予防改善効果が明らかになりました。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学生命環境系
礒田 博子 教授

ダイドードリンコ株式会社 マーケティング部 商品企画グループ
香川 珠実 アシスタントマネージャー


掲載論文

【題名】
Transcriptomics and Biochemical Evidence of Trigonelline Ameliorating Learning and Memory Decline in the Senescence-Accelerated Mouse Prone 8 (SAMP8) Model by Suppressing Proinflammatory Cytokines and Elevating Neurotransmitter Release
(炎症性サイトカインの抑制及び神経伝達物質放出の促進を介したトリゴネリンによる老化促進モデル(SAMP8)マウスにおける空間学習記憶能の改善効果とそのトランスクリプトーム解析及び生化学的検証)
【掲載誌】
GeroScience
【DOI】
10.1007/s11357-023-00919-x

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