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TSUKUBA FUTURE

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#035:「リアル・チャンピオン」として胸を張るためのアンチ・ドーピング

#「リアル・チャンピオン」として胸を張るためのアンチ・ドーピング
体育系 渡部厚一准教授

体育系 渡部厚一准教授

 肉体を鍛え上げたトップアスリートが、フェアプレー精神に則って繰り広げるスポーツ競技は、誰をも感動させます。その分、薬物疑惑のニュースを聞くと興ざめは否めません。正々堂々と戦ってこそ、「世界共通の文化」としてのスポーツです。しかし残念なことに、薬物によってパフォーマンスを高める行為は、ドーピングが問題視される以前から水面下で行われていました。事件として問題となったのは1960年のローマオリンピック。自転車競技で興奮剤アンフェタミンを使用したとされるデンマークの選手が競技中に死亡したのです。これを機にスポーツ界でドーピング防止の機運が高まりました。 日本では、1964年の東京オリンピック開催時に開かれた国際会議でドーピングが議題になったことで公式に議論されるようになりました。そして1999年に世界アンチ・ドーピング機構が設立されたのを受けて2001年に日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が設立され、世界標準のアンチ・ドーピング活動の展開が可能となりました。


 渡部さんとアンチ・ドーピングとの出合いは1988年に遡ります。各競技団体がドーピング検査を実施していた頃で、東京大学教育学部で体育学を学んでいた渡部さんは水泳競技での検査に関わるようになりました。そうした経験からスポーツ医学への関心を高めた渡部さんは、筑波大学で医学を学びなおして医師となりました。2012年のロンドンオリンピックでは、水泳日本選手団のチームドクターとしてオリンピックに参加しています。 古典的なドーピングとしては、筋肉増強剤や興奮剤が使用されてきました。そのほか、事前に自分の血液を保存しておいて競技直前に輸血する血液ドーピングもあります。そうすると赤血球の量が増え、心肺能力が一時的に高まるといわれているのです。しかし、そうした行為はフェアプレーの精神に反するだけでなく、アスリートの健康を危険にさらすものでもあります。 2020年の東京オリンピック・パラリンピック招致決定を受け、筑波大学は2013年11月にJADAとのあいだで連携及び協力に関する協定を結びました。永田学長も、2014年の年頭所感で、「体育,スポーツ医学,障害科学等の分野を擁する本学としては教育・研究を通じたオリンピック・ムーブメントの振興やアンチ・ドーピングの活動に努め,2020年東京オリンピック・パラリンピックの成功に向けて最大限の貢献を果たしていく」との決意を表明しています。  


渡部厚一准教授

 意図的なドーピングは論外ですが、意図せぬドーピングを防ぐには教育・啓発活動が重要です。市販の風邪薬の9割には、ドーピング禁止薬物であるエフェドリン類が含まれています。花粉症などの治療薬、サプリメントなども要注意です。しかし、ドーピング検査で陽性反応が出てしまった場合、知らなかったではすまされません。他人からもらった飲み物にも気をつけねばなりません。いわゆる“うっかり”ドーピングを防ぐための教育も大切です。誘惑に負けない倫理教育も重要です。アンチ・ドーピングは、競技をやる上でのルールの一部なのです。一方、アンチ・ドーピングに詳しい医師、薬剤師の養成も欠かせません。公認スポーツドクター制度 アスレチックトレーナーの養成プログラムでもアンチ・ドーピング教育を行っており、渡部さんはそうした講習会の講師も務めています。JADAでは、アンチ・ドーピングに詳しい薬剤師5000名余りをスポーツファーマシストに認定し、ホームページで紹介しています。
 

 選手にとって、ドーピング検査は楽しいことではありません。尿検査では、検査員が採尿に立ち会います。また、トップアスリートの多くはRTPA(検査対象者登録リスト・アスリート)に選ばれ、事前通告なしの競技会外検査の対象者となり、自宅を突然訪れた検査員により検査を受けなくてはなりません。と同時に、四半期毎に向こう3カ月間の居場所情報を提出する義務も生じます。ただしRTPAに選ばれることは、真の「日本代表」の証とも言えます。居場所情報の変更を怠っただけでも罰則規定があるほど重い制約です。

東京オリンピック・パラリンピック招致成功の背景には、日本がアンチ・ドーピング活動に非常に積極的で、オリンピック・パラリンピックでの違反がほぼゼロという実績を誇っていることも大きかったといわれています。附属学校をもち、スポーツ医学の専門家もそろう筑波大学は、アンチ・ドーピングのみならず、全世代を対象としたスポーツ倫理教育全般、スポーツマネージメントの学習体系を確立し試行できる立場にあります。渡部さんはJADAとタッグを組んでスポーツ文化の健全な育成に力を入れています。

 

(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)


(2015.1.20更新)


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