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TSUKUBA FUTURE

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#115:自分にしかできない医療を届けたい

自分にしかできない医療を届けたい

医学医療系 沖山 奈緒子 講師

皮膚科医の能力が問われる場面の一つが視診、つまり患部の「見た目」で病気の診断をすることです。それだけで病名を確定するわけではありませんが、まず見た目で判断できるだけの経験の積み重ねが正確な診断への近道です。その一方で、皮膚に異常があるとき、皮膚そのものに原因があるとは限りません。例えばアトピー性皮膚炎は、なんらかの外来物質に対する免疫が過剰に働き、アレルギー反応として皮膚に症状が現れます。けれども免疫機能は体全体の問題ですから、皮膚症状だけを取り除いても、根本的な治療にはなりません。皮膚科医には、皮膚病だけでなく、皮膚に症状が現れる様々な疾患についての知識が求められるのです。

皮膚科の中でも沖山さんの専門は、自己免疫疾患である膠原病。その症状から皮膚科を訪れる患者は多いものの、いったん診断が下されれば、全身病としての治療が必要になります。膠原病の一つである皮膚筋炎には、その症状によっていくつかのタイプがあり、専門医であれば視診で見分けることも可能です。しかし、それらの違いが何に起因するものかは明らかでなく、治療に生かすこともあまりできていませんでした。

そこで沖山さんは、いくつかの病院と協力し、数年をかけて、皮膚筋炎の患者について、視診とともに皮膚組織の病理検査のデータを集め、それらの結果を照らし合わせてみました。すると、皮膚筋炎を起こす原因となる自己抗体の違いによって、見た目の皮膚症状も異なっていることが明らかとなったのです。近年、皮膚筋炎の自己抗体にはいくつかの種類があることがわかってきており、また、見た目にも違いがあることは経験的に多くの医師が感じていましたが、それらの関係性を客観的に裏付けたのは世界で初めてです。これにより、患者ごとに最適な治療法を選ぶことができ、予後の改善にもつながる可能性が示されました。

沖山さんの写真

(過去に診た患者の名前は忘れても、病変は覚えている。その積み重ねが、優れた皮膚科医を育てる)

膠原病は、自分の体に対して免疫が異常に働き、様々な臓器に炎症を起こす病気の総称です。関節リウマチが有名ですが、それ以外は患者数が少なく、国の指定難病になっています。つまり、重症で治療法も確立されていない希少な疾患だということです。全身病なので、どこに症状が出るかわかりませんし、皮膚筋炎もタイプによっては、皮膚症状は軽くても、肺の病気を併発して命を落としたりすることもあります。その時々の症状だけを見て誤診されたり、なかなか病名がわからないことも多く、医師には高い専門性が求められます。完治することは難しくても、早期に診断し、良い治療をすれば、日々の生活には支障のない状態を維持することができます。沖山さんも、診療においてはそこを目指していますが、診療から生まれる疑問のタネを元に、いろいろな自己免疫疾患に対してピンポイントな治療法を開発したいと、研究にも精力的に取り組んでいます。

医療の中でも皮膚科は地味な印象があります。皮膚病の外見や匂いを嫌う医学生も多い中、それでも皮膚科を選んだのは、学生実習の時に、皮膚科の教授が、あちこちの診療科を回っても診断がつかなかった患者に対して、検査もせずに、一目見た瞬間に、病名を言い当てた場面に遭遇したからです。その病名で、それまで患者が訴えていた様々な症状がすべて説明されました。トレーニングを積めば、自分にしかできない医療が届けられる、自分と出会えて良かったと患者に言ってもらえる医師になりたい、そう思ったそうです。

診断技術が発達し、検査結果から病名が特定できることも珍しくありませんし、視診の代わりにAI(人工知能)を使った画像診断を行う研究も進んでいます。確かに、皮膚がんのような、形や特徴などがわかりやすい疾患については、AIの方が早く正確な診断ができるという報告もあります。しかし、膠原病やアトピー性皮膚炎は、体の部位によって症状の出方が違ったり、痒くて引っ掻いてしまうことで患部の状態が変わったりするので、まだまだAIには任せられない領域です。皮膚は、体の一番外側で外敵からの攻撃を防いでいる、最大の免疫臓器。それだけに幅広い病気と関連します。たくさんの患者を診て、視診と病理検査から正しい診断を下し、それをインプットしていくことで、自分自身を進化させ続ける。それが皮膚科医としてのやりがい、プライドです。

研究室での風景写真

(最近は、アレルギー外来にも取り組んでいる。臨床で担当する患者が研究のテーマにつながる)


 

(文責:広報室 サイエンスコミュニケーター)


(2020.2.18更新)

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