印刷

大学案内

学長室
2017年度学長所信表明 対応から先制へ

学長 永田恭介

 第3期中期目標期間がスタートして1年が経ちました。全学の知と力を集めて共に練り上げた中期目標の達成に向けて、各組織で着実に計画を進めていただいてい ることに、まず感謝申し上げます。

 大学が置かれた状況は刻々と変化しています。激動するグローバル化した世界では多種多様な問題が起こり、情報化の進んだ社会ではこれまでに経験したことがないスピードと規模で変化が起こり、世の中の変容が進んでいます。生活基盤の歴史的な変化による功罪に我々は動かされてきました。生活を支える基盤が狩猟採集から農耕畜産に移った変化は、命と社会の安定をもたらしたと同時に、緑の消費を進めました。その基盤が工業に移り、科学技術の発展とそれらの社会実装の進展に伴い、莫大な化石燃料の消費とそれに端を発するネガティブな影響に世界は晒されてきました。そして、今、我々の社会を動かす基盤は情報へと移り、便利で快適な生活が保証されるとともに、予想を越える社会の変化がもたらされています。19世紀後半から始まった科学技術の驚異的な発展は、公害やエネルギー資源の枯渇などに代表される各種の地球規模の問題を発生させてきましたが、それらを克服してきたのも科学技術です。LED照明が分かりやすい例ですが、数々の省エネに資する発明・工夫は、エネルギー使用の伸びを例にとると、この伸びは国民総生産の増加に比してはるかに下回るレベルに留めています。2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」は、情報基盤社会を次のステージ、いわゆるサイバー空間と現実空間が融合した「超スマート社会」に繋げていくための科学技術の推進方針を掲げ、新産業の創出と産業生産性の向上を実現するとともに、少子高齢化などの課題の解決を目指しています。このような認識の元で、大学は知の創出と継承、すなわち研究とそれを継承する人材育成について、将来に対するしっかりとした展望を持って臨まなければなりません。その成果は、社会にとっては新たな価値の創造と社会の持続性に直結しており、大学は研究と教育の成果およびその発露である社会還元の実体を持って社会に貢献する覚悟を新たにする必要があります。

 具体的に、少子化問題を例に挙げて、例えば教育について、今後考察し、取り組まなければならない観点について概観してみます。我が国の18歳人口は、2005年には137万人でしたが、2016年には119万人まで減少しました。今後、2031年には100万人を割り、2040年には80万人台にまで減ります。人口推計は最も確度の高い推計であり、革新的な技術革新、衝撃的な政策転換、あるいは国民のマインドセットの変容がない限り、必ず現実となる数値を示しています。少子化および情報基盤社会化は産業構造や就業構造の変化を加速します。マス(量)の観点から大学への進学者について考えることは、質の高い学生、特に知の高みを探究しそれを継承できる人材を求める本学にとっては大変に重要なことです。18歳を中心としたいわゆる従来型の(traditional)学生は非従来型の(non-traditional)学生構成に変わっていくはずです。代表的な非従来型の学生とは、海外からの学生や学び直しを求める社会人などです。海外の大学に所属する留学生だけではなく、中等教育や大学を修了して直接我が国および本学の学士課程もしくは大学院課程に入学してくる学生を対象者と考えれば、学生リクルートの方策転換も必要です。海外からの学生を視野に入れ、我が国における就業にも目配りすれば、日本語・日本文化に関する教育の充実が求められます。
 高等教育の複線化に資する「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関」の制度創設について閣議決定され、今後国会で議論される中、研究大学におけるvocationalな観点での教育コンテンツの在り方についての議論も必要です。地方・地域創成の基礎は、地方・地域における就業保証ですが、既存の企業を呼び込む施策はこれまでの教育を受けた者が牽引している実情からは容易ではないと推測される中、今そしてこれから大学で学ぶ者が少なくとも社会の中核として活躍できる頃に、地方・地域を興業の場所として選択できる能力と背景(アントレプレナーシップ)を付けさせることこそ重要だと考えられます。「超スマート社会」では、働き方が大きく変わります。すでに、企業での終身雇用が過去のものとなり始めています。今後は企業への就職ではなく、能力を登録し、必要なプロジェクトや事業に招集されるメンバーシップ型ジョブの働き方に変わろうとしています。教員が何を教えたかではなく、学生が何を身に付けたかが問われるわけです。

 日進月歩のAI分野では、学士課程、大学院課程でAIそのものをじっくりと学ぶよりも、むしろ数学や情報学のしっかりした基礎の上に、現在進行形の発展を身に付け、そのままinsitu(現場)での実践とさらなる学びが求められています。米国では、数学を修めた者の社会での有用性が広く認められるようになってきています。こうした事例に鑑みるに、我が国における教育課程の全面的な再検討が必要です。いわゆるこれまでの教養教育から総合智を修学するリベラルアーツ型教育への充実が重要な一方、カスタマイズされた、あるいは個別化されたコンテンツ開発も必要です。こうした事例以外にも、アドミッションについての考察と改革、課程接続改革(4+2年から3+3年へ)の可能性、日本型教育の輸出、大学の教育に対する経営的観点など、さらには学生の経済支援の考え方、奨学金の配分方法などについてまで考えておく必要があります。また、社会人の学び直しについて、これまで以上に実社会に直結したプログラムの開発(内容、期間などを考慮)が必要です。

 本学の存立意義の1つは、大学改革の旗手としての役割です。少子化ということ1つを例にとっても、上に述べたこと以上にまだまだ議論すべきことは多々あります。以下に、本学における今後の検討を要する課題や具体的な取り組みについて述べます。要するに、研究、教育コンテンツの質のいっそうの向上とそれを可能とするリソースの活用効率の格段の向上を目指す取り組みが重要だということです。

研究の質の向上

 大学での教育は、単に教科書を教えるだけではなく、教育に携わる教員が見いだした発見、発明を含めて高い水準の研究成果を裏付けに教授すべきものであり、もって次代を担う者を涵養することです。研究コンテンツ、あるいは教員の研究成果を向上させるためには、教員の活動成果の見える化、教員選抜における工夫、教員の実質的な研究時間の確保、研究環境の改善などの施策が考えられます。

 研究成果の評価を数で行うことが、必ずしも研究の質を正当に評価しているとは限りません。しかし、定量的評価(教員毎、組織毎など)を質の向上に結びつけることができる場合もあります。そのような観点から、これまで試行的に実施してきた定量的組織評価を規定化し、今年度から本格的に実施することになりました。査読付き原著論文の総数、国際共著論文の総数、被引用数などの数値が示す意味をよく理解することで、それぞれの学問分野の特性を踏まえた質の向上に資する知見が得られるはずです。これらの数値が自分たちの研究の質の評価に合わないと感じる組織では、これらに代わる指標を開発する必要があります。実際、体育系では独自に当時のThomsonReutersと協働して、世界通用性を持った評価システムを公表し、自己改革に利用しています。また、人文社会系においても著者の所属組織の多様性を主体とした評価システム開発を進めています。こうした指標、数値を賢く活用して研究の質の向上を目指すことは大切な努力です。
 研究コンテンツの向上には、多様性も必要です。大学は、近視眼的になりがちな政府や企業とは異なり、100年先を見通す存在であるべきです。100年先には不確定要素が多く、それを見通すには多様なアプローチが必要です。そういう観点からは、基礎研究、応用研究、開発研究はどれも必要ですし、ディシプリン型の研究と分野横断型の研究の両方ともが大切です。その上で、大学における研究から新たな学問分野が生まれることを願っています。昨年度の本所信において、本学における「学際性」の意味を定義し、本学における研究の在り方について提言いたしました(2016年度学長所信から抜粋:「学際性」の究極的な意味は、新たな学問分野の創成ということです。基礎、応用、あるいは社会還元型研究という範疇のどれかを指しているのでありません。----<中略>----新しい学問分野や領域を積極的に産む場として本学を再定義しようということです)。自然科学だけでなく人文・社会や体育・芸術を含む学問領域の幅の広さとそれらの協業が100年先を見通す本学の真価となります。

 研究推進の最大のリソースは研究者です。組織の量的な研究成果は、実質的な研究時間の総和(研究者数×研究時間)に完全に比例しています。加えて、組織としての高い水準の研究成果も、同様に実質的な研究者数の広がり(実質的な研究時間総和)に比例します。しかし、運営費交付金の基盤的な部分が減りゆく中で、教員の人件費も圧迫されています。教員人件費を抑制しつつ、多様な研究分野の研究コンテンツの質を向上させるには、発想の転換が必要です。以下の例示に加えて、教職員の皆さんのさらなるアイデアに期待します。
 まず、内向きの発想からトランスボーダーへの転換です。個々の国立大学の内なる資源は着実に減少しています。手持ちのリソースだけで研究活動をやりくりしようとするなら、規模の縮小が避けられず、結果的に量や多様性の低下を招きます。しかし、ボーダーを越えて外に目を向ければ、活用できるリソースはまだたくさんあります。系を越えた学内共同研究、筑波研究学園都市の研究機関との共同研究、国内他大学との共同研究、国境を越えた共同研究、産学官の枠を越えた協働などによって研究を続けることもできるだけではなく、新たな視点からの研究も展開される可能性があり、ひいては研究コンテンツの質の向上に結びつけることも可能です。
 エデュケーションファーストからリサーチファーストへの発想の転換も必要です。大学にとって教育が重要なのは言うまでもありませんが、上で述べたように本学が旨とするのは高い水準の研究成果を裏付けにした教育です。そのためには、リサーチファーストの意識を全学に浸透させ、徹底的に教員一人一人の研究時間を増やしていく必要があります。各組織で研究以外の業務を抜本的に見直して教員の研究時間を増やせれば、仮に教員数が減っても研究コンテンツの質を向上させる余地がでてきます。また、教員採用における業務の明確化とこれまで以上に高い能力を持った人材の雇用に留意すべきであり、テニュア付与や昇任人事については大学執行役員である系長の冷静な判断が必要です。
 研究のリソースとして、ほかに研究費や研究環境(スペース、ファシリティ)がありますが、これらについてもトランスボーダーの発想が役立ちます。例えば、科研費等の外部資金に申請するのは教員の仕事と思われがちですが、その発想を転換し、ぜひともURA、本部の外部資金課や財務企画課、国際産学連携本部、各支援室の研究支援担当との連携・協働を深めていただきたいと思います。例えば、複数の系の教員(シーズの提供)と財務企画課、国際産学連携本部(省庁や企業とのリエゾン)とURA(資料収集・申請書作成)とからなるチームで外部資金を取りに行くような事例が増えてくることが期待されます。教職協働で外部資金を申請・運用する体制を確立することにより、教員は研究そのものにより多くの時間を費やすことが可能になります。外部資金の増加は、本学の弱点の1つである博士研究員の増加にも繋がります。
 研究環境のトランスボーダー化という意味では、オープンファシリティを推し進めることも重要です。すでに学内で、一部の研究機器のオープン化が進んでいますし、TIA(TsukubaInnovationArena)では研究学園都市内の複数の組織間での研究機器のオープン化が行われています。その究極の事例が、「京」コンピュータを上回り、昨年12月に現在の国内最高性能システムとして登録されたスーパーコンピュータOakforest-PACSです。これは、システムの調達・導入・運用および主な利用プログラム運用などの全てを本学計算科学研究センターと東京大学が共同で実施している国内初の試みです。
 今年度は、研究大学強化促進事業の第1期のまとめの年であるとともに、第2期の申請準備の年でもあります。3つの学術センターの発展的な将来像の実現、重点研究センターの充実、学内センターの再編、また、これまでには発想のなかった国際共同利用・共同研究センターの創設準備などに加えて、この項目で述べた観点を含めて、研究環境と研究力の向上を目指していきたいと考えています。

教育の質の向上

 本学の教育改革を加速する必要があります。かつて、本学では我が国の高等教育システムを先導する改革が進められてきました。AC入試、推薦入試などを含む十数種類に及ぶ選抜方法の実施、学位プログラムとして認められた学類システムの運用、分野横断的な学群・研究科構成、革新的な教養教育など、他の大学が追随する取り組みを進めてきました。第3期中期計画期間が始まる前年から、各種の教育に関わる改革の準備が進められてきましたが、ギアをシフトアップする必要があります。例えば、優秀な留学生を確保する工夫が必要です。リクルートについては、国際室を先兵としながらも教育推進部の本格的な取り組みが必要です。外国人に対応できる入試の改善を全学で考えていく必要があります。日本人学生の英語力の向上については、学士課程レベルでの取り組みが進んでいますが、大学院課程レベルではさらなる努力が必要です。一方、外国人学生の日本語教育、日本文化・事情教育については、先にも述べましたが、就業構造の変化などに対応するためにも大きな改善が必須です。
 本学の学類による学士課程教育は、学生に専門力を身に付けさせる観点からは、改善の余地はあるものの効果を発揮していると考えています。しかし、学生に社会的(social)コンピテンシー、あるいは現代的(contemporary)コンピテンシーを付与する観点からは、システムの内容を熟考することが必要です。それは、大括り入試の実施とも関連しています。日本独自の卒業研究・卒業ゼミのメリットは、多くの海外の学生も認めるところです。一方、これからの社会で求められる能力や技術・技能の涵養については、学習者中心の教育という視点での科目の内容と組み立てについての工夫が必要だと考えられます。教養教育については、課程という考え方ではなく、SFタームを含め年次(あるいは修得科目ナンバーレベル)に応じたリベラルアーツの導入を検討する時期にきています。

 個々の教育コンテンツの向上の基本は、教員が情熱をもって自らの学問を語り、自分の専門分野の魅力と最先端の知を学生に伝えることが最も大切で、この点については教員各位がそれぞれに心を砕いておられることと思います。加えて、時代の要請でもあるコミュニケーション能力の向上などを考えれば、例えば、一方通行の座学中心の授業からグループ・ディスカッションなどを通して学生が能動的に学修するアクティブ・ラーニングを取り入れた授業への転換やeラーニングシステムmanabaを活用した授業外での学修の充実などの工夫も必要となってきます。TA・TFは全員、TA研修会でこれらの基礎を学んでいます。教員が自らTA研修にご参加いただくと、TA・TFとの協働がいっそう円滑になるのではないかと思います。
 カリキュラムの向上を目指すための、学位プログラム化の実現に向けた検討については、すでに先月、中央教育審議会への文部科学大臣からの諮問がなされたところであり、広くその必要性が認められているところです。学位プログラムの根本の1つは、教員本位ないし教員が所属する組織本位の教育から学生本位の教育へという発想の転換です。従来の仕組みでは、「教員が何を教えたいか」あるいは「教育組織にどのような教員がいるか」に応じてカリキュラムが組まれる傾向がありましたが、学位プログラムにおいては「ある学位を授与される学生はどのような知識や能力を身に付けるべきか」(ディプロマポリシー)、「そのような知識や能力を身に付けるにはどのような授業が必要か」(カリキュラムポリシー)という発想でカリキュラムが編成されます。特に、授与する学位に直結するディプロマポリシーの設定は重要であり、これも学位プログラムを考える際の根本の1つです。Ph.D.は、元来、大学教員や研究者およびこれらに準じる者に必要な能力、すなわちオリジナリティとクリエイティビティを十分に発揮できる者に付与されるものです。同等の能力を持った者が、それら以外の職に就くことを妨げるわけではありませんが、博士課程修了者が全員そのような職を目指しているか、あるいは目指せるかについては十分に留意する必要があります。博士リーディングプログラムが意図しているように、専門領域の知のプロフェッショナルとして、そのような職以外で能力を発揮できるような学生を育成するように組んだプログラムは、今後多くの注目を集めると思われます。そして、本学の強みの1つである学際性を発揮させるためにも、また、社会人のニーズに対応する観点からも学位プログラム化は重要です。すでに、「系」という教員組織が成立していることに鑑みても、学位プログラムの本質を実践するシステムの構築が期待されます。

 述べてきたような教育の改革にとって壁となるのが人的リソースの問題ではないかと思います。教員人件費を抑制しつつ、教育コンテンツの質を向上させるには、やはり発想の転換が必要です。研究の質の向上を考えた場合と同様ですが、まず内向きの発想からトランスボーダーへの転換が有効です。適切なエフォート管理の範囲内で系を越えた兼担や科目コードシェア、他大学、筑波研究学園都市の研究機関、企業などとの連携大学院、国境を越えたジョイント・ディグリー・プログラムや科目ジュークボックスなどによって不足を補うこともできますし、コンテンツの質が向上する可能性もあります。ちなみに、これから動き出す卓越大学院(仮称)もトランスボーダーなプログラムであることが要件となっており、早々に準備を進めなければなりません。次に、授業担当者の範囲に関する発想の転換も必要です。TFや非常勤講師、客員教授などに任命された産官学の多様な有識者の活用です。さらに、エデュケーションファーストからリサーチファーストへの発想の転換とそれを支える具体的な取り組みを考え出すことです。例えば、教育組織の管理運営は幹部教員や専門職員に付託するのも一案です。授業科目を各プログラムの意図するところに従って厳選する必要もあります。本学は教育に供する科目数が非常に多く、これは講座制ではなく研究グループ制を基本とする本学の構造的な問題である可能性があります。研究グループ制のメリットを生かしながら、現在よりもいくらか大きめの「科目グループ」などを組むことで、個々の教育負担の軽減と科目ナンバリングに繋がる教育の効率化を図るなどの工夫について検討していきたいと考えています。こうした工夫は、常に一定数の教員がサバティカルをとっても授業に支障が出ないことなどにも繋がります。

 教育実践を考える時、その受益者である学生の支援についても向上させていく必要があります。本学が発信元である「学業における武者修行」の考え方の根源は、学生に自立を促すことです。学生にとって大学とは、自分が何者なのかを探り、人生において何をなすべきなのかを考える場所であり、そのための鍛錬や経験を積む場所です。武者修行においては、自己責任において自らリスクを背負って挑戦することを決め、自らがプロデューサーとなって企画・計画しなければなりません。その実行の成果は成功・失敗という結果ではなく、学生自身が、大学と学問、社会や国などについて肌身で感じ、咀嚼して身に付けられたかどうかです。そして、その効果は、自ら求め、自ら苦しんで学ぶものである大学における修学の基盤ともなります。運営費交付金の削減が続く中、学生支援についてだけは微増であっても右肩上がりにという基本方針を出しています。「はばたけ!筑大生」事業もその一環です。また、グローバル・コモンズ機構から支援室にはエリア・コモンズ要員を送りました。学生の武者修行支援の充実のみならず、各支援室のグローバル化対応促進のために活用を進めることが重要です。昨年度、ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリア(DAC)センターが、本学卒業生・修了生が社会に出てからの活躍についての聞き取り調査を行いました。社会からはポジティブな評価をいただいています。昨年度末には、グローバルヴィレッジ棟の一部が竣工しました。外国人と日本人学生の混住による異文化体験が、国際性の日常化をいっそう推進するものと考えています。

 以上、研究と教育の質の向上について述べてきましたが、こうした取り組みを着実に実行していけば、国際的な評価にも必ず反映されていくはずです。今年2月1日に発表されたタイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の「最も国際性のある大学」ランキングにおいて、本学が世界141位(国内2位)にランクインしたのもその1つの事例であり、これは教職員の皆さんによる長年のトランスボーダーな研究・教育活動の成果だと考えています。

教職協働によるマネジメント

 本学らしい研究、教育を進めるためには、それらを支える財務・施設基盤の充実、人事管理、リスク管理、学術情報マネジメント、将来構想の検討などについても熟慮する必要があります。本学の運営を考える上では、先端的な附属病院と多様な附属学校の活動も十分意識する必要もあります。
 最初に運営費交付金についての理解を共有したいと思います。今年度から、中期目標・計画に対する評価をもとに運営費交付金の一部が傾斜配分されますが、その評価における本学の再配分率は91.7%で、8.3%の減額となりました。再配分の原資の規模と仕組みは、以下に述べるとおりです。すなわち、重点支援の枠組(①地域貢献、②特定分野、③世界的卓越)ごとに設定された機能強化促進係数(①0.8%、②1.0%、③1.6%)に基づく額を予め各大学の運営費交付金から差し引き、その総額の半分程度を重点支援の枠組みごとの評価結果に応じて傾斜配分するという仕組みです。したがって、本学の運営費交付金の0.8%分(1.6%の半分)が8.3%減額となり、全体からは0.06%強(2千万円程度)の減額です。一方、機能強化促進費として、これを上回る額を獲得しています。ただしこれらは、運営費交付金のうち、機能強化のためにいわば色を付けて再配分される部分のことであり、色の付かない基盤的な経費(従来の一般経費)の削減(1.6%)が止まったわけではありません。本学らしい研究や教育を支える基盤経費が縮減される中、中期計画の評価指標(KPI)を達成していくのは至難の技で、発想の転換が不可欠です。
 運営費交付金の実質的な減少が基盤的経費部分(人件費が相当部分を占める)であることに鑑みれば、承継職員分の削減は必須であり、一方で機能強化費および機能強化促進費に該当する戦略的な雇用で対応せざるを得ません。雇用される者には高い研究教育能力を求めることになります。一方、収益の増加策については、幾つかの取り組みが軌道に乗りはじめています。その1つは、産学連携の推進です。2年前に国際産学連携本部を設置し、昨年度からは産学連携担当の大学執行役員を新たに配置して、民間との大型共同研究の推進と民間資金導入の拡大を図ってきました。先般、文部科学省から、毎年行っている全国の1,000を越える大学などの機関を対象とした産学連携の実施状況調査が公表され、その結果、本学の平成22年度から平成27年度の民間共同研究の平均伸び率は35.2%で、全国で2位であることが示されました。また、外国企業との共同研究も大幅に拡大し、平成27年度の受入額は平成26年度の約10倍となり、全国で16位から2位の規模になりました。開発研究センターの設置も進んでいます。その第一号であった「藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター」についで、本年1月には「プレシジョン・メディスン開発研究センター」が発足し、この4月からは「スポーツイノベーション開発研究センター」と「未来社会工学開発研究センター」がスタートします。「スポーツイノベーション開発研究センター」は、近い将来に国際産学連携本部とは別に、体育・スポーツに関してのスポーツリスク管理からアンチ・ドーピングの実践、さらには収益事業の運営実体などを想定した本部/局の創設を視野に入れた準備のために設置いたします。教育研究成果を積極的に用いた収益プログラム(エクステンション・プログラム)、また、専門の会社と提携して始めたクラウドファンディングについても順調な立ち上がりを見せていますので、今後の大きな展開が期待できます。本年4月から施行された「指定国立大学法人制度」に関する法律(国立大学法人法の一部を改正する法律)には、全ての国立大学に対しても不動産活用などについての規制緩和が盛り込まれています。現在、これを利用して、外部運営会社を活用した多目的なアリーナ建設についての検討を開始しています。今後の産学連携においては、ニーズとシーズのマッチングだけではなく、大きなopenquestionに産学で挑戦するといった考え方も必要です。これらを目指した産学連携活動をさらに活性化する目的で、これまで指揮系統が明確化されていなかった連携・渉外室を事業活動推進室として国際産学連携本部に置くこととしました。

 人件費が圧迫される一方で管理運営業務は増える中、疲弊気味である教職員の仕事の効率化は必須の観点です。
 事務組織の基本はディシプリン型(部や課)のガバナンス(縦割り方式)であり、これによりある意味での安定的な事務作業が確保されています。しかし、目まぐるしく変容する内外の情勢に応じて大学にも新たな業務が次から次へと発生してくる中、その度に新たな部署や担当を配置する余裕は今の国立大学にはありません。また、昨今の業務は複合的なものも多く、単一の事務組織だけで対応できないケースも増えています。こうした業務については、複数の部や課の職員たちがエフォートの一部を使って兼務する業務・事業チームで対応する考え方を導入すべきです。このようなチームの多くはアドホック的なものであり、それらは業務が完了すれば直ちに解散します。WBCにおける代表チームのようなことを考えてください。欧米のみならず我が国の大手企業でも採用されてきた方法です。
 教職協働の推進も重要です。従来は、特定の課題に対して教員組織と職員組織を1つずつ作る傾向がありましたが、教員と職員がアンダーワンルーフで問題解決にあたる方が人的にも時間的にも効率的です。すでに、広報室、利益相反・輸出管理マネジメント室、DACセンターなどは、常設の教職協働型組織です。情報ガバナンス基盤室のように専任を置かず、複数の系の教員と複数の事務組織の職員がエフォートの一部を使って兼務する教職協働型チームも機能しています。その観点からは、今後、今年度からスタートする人工知能科学センターとの協業などによる情報ガバナンスへのAI導入などの検討に期待しています。国際室についても、そのような形態をとっていますが、さらに効率よく国際戦略を実行するためには、複数の本部組織・系の教職員による情報と実行指令系統を共有できるチームあるいは会議体が必要です。いわば、スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)を牽引するタスクフォースの拡張版です。
 さらに、教職員の任務について、時代に合った考え方に変える必要があります。つまり、職員こそが運営・管理の担当者であり、教員はその枠組みを設定する者であるという考え方です。研究活動と授業・研究指導は教員の本務ですが、研究と教育に係るマネジメントは教員だけに任せておく必要はありません。これまでは、教員への遠慮からか、教員の指示を待って職員が動くのが常態でしたが、職員がもっと能動的に研究と教育のマネジメントにコミットすべきです。このような業務の役割分担についての法的な整備については、文部科学省に提言し、すでに準備が始まっています。こうした動きを先導するのも本学の役割です。FDとSDを充実し、教職員の一体化した検討・研究が必要です。この働き方改革が実現すれば、教員はより研究と教育そのものに専念でき、一方で職員のやりがいが高まり、結果的に大学の組織力が上がります。
 教員と職員という縦割りを越えた先に、教員でも職員でもない(あるいは、教員でも職員でもある)第三の職があります。これは、学位を有し、教員の業務(研究・教育)を深く理解しつつ、大学経営のトレーニングを受けた人材で、まさに今の法人化された国立大学に欠けている人材です。2018年問題が目前に迫る中、大学経営という観点から研究をとらえて戦略を立て、マネジメントを行うURAに加え、同じことを教育、入試、学生支援、国際化、産学連携などの分野で行う人材をどう育成していくかは、国立大学法人の経営に直結する喫緊の課題です。第三の職のあるべき姿とキャリアパスを我が国全体で考える段階にきており、本学としてもその実現に向けた考え方と方策を準備しておく必要があります。
 さらに、ジェンダーのみならず、年齢、障害、国籍などを含めたダイバーシティ推進に取り組むことが、大学の構成員一人一人の可能性を最大限に生かし、それがすべての構成員の幸福に繋がるとともに、新たな働き方を生み出します。3月に本学学長として「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」行動宣言に賛同し、この機にダイバーシティ推進に関するメッセージを公表しました。社会のグローバル化、価値の多様化が急速に進む中、構成員の多様性を高めることは大学と学問の発展、大学文化の形成において本質的な課題です。

 本学附属病院は、特定機能病院として高度医療の実践、医療技術の開発などの使命を担っています。本学の特徴を生かしたロボットの医療適用、BNCTによる革新的がん治療などはその代表例です。また、基礎的シーズを臨床現場に繋ぐことも使命ですが、この度T-CReDOを中心に申請を行ったプロジェクトがAMEDの平成29年度「橋渡し研究戦略的推進プログラム」に採択され、今後の取り組みが加速されるものと期待しています。県内唯一の特定機能病院であることから、つくば市、茨城県はもとより北関東や南東北の地域医療にも責務を果たしていかなければなりません。国際都市であるつくばにおいては、外国人研究者の子弟を含む居住者に対する医療サービスを牽引する必要もあります。加えて、医師を含めて医療従事者が働きたくなる病院となるようなマネジメント改革が必要です。
 本学附属学校群は、3つの拠点(先導的教育拠点、教師教育拠点、国際教育拠点)目標を立てて、改革を進めているところです。特に重要な点は、あらゆる改革を先導する使命も持った本学の附属学校であることを強く意識することです。グローバル教育、ダイバーシティ意識の開拓に繋がるインクルーシブ教育の推進などは実践されている好例です。また、附属学校と本学の教育における実験的な取り組みが改革を加速させるものと信じています。一例を挙げれば、インターナショナルバカロレア(IB)に関わる取り組みです。附属坂戸高等学校で準備してきたプログラムが、IBDPの認可を取りつけました。一方、本学では4月から教育研究科修士課程でIBに関わる教員養成プログラムが始まりました。このプログラムは、単に教員を養成する観点からではなく、多様な発展的業種でのリーダー育成にも資するものです。また、つくば市内の高校でも新たにIBが始まります。このような取り組みや事案を個々に発展させるのではなく、ダイナミックな相互連携によって、格段の機能向上を目指すべきです。ちなみに、支援教育のIB的発展といった課題は、修士課程に次ぐ博士課程の課題ではないでしょうか。

大学の未来に向けて

 10~20年先の本学の将来像については、昨年度に設置した大学戦略室で鋭意検討をしていただいているところですが、もう少し近い本学の未来に向けたいくつかの動きを共有したいと思います。
 国からの運営費交付金が減りゆく中で、国立大学は自己収入を増やしていく必要に迫られています。中でも企業との共同研究や卒業生との連携がこれからの大学経営にとって死活問題となってきます。産学連携活動の活性化に加えて、本学にとって最も信頼できる卒業生との連携を深めるために準備を進め、平成29年1月に江崎玲於奈氏(元筑波大学長)を会長として「筑波大学校友会」がめでたく発足しました。これは会員と筑波大学、あるいは会員同士が生涯にわたって相互に絆を保ち、共に発展していけるよう、世代や分野を越えた交流の活性化を図り、大学機能と個々の方々の人生を充実させるべく情報交換・支援活動を行うことを目的とする組織です。筑波大学の卒業生、修了生、在学生だけでなく過去現在未来の教職員も入会できますので、ぜひとも入会をお願いいたします。
 筑波研究学園都市開発事業の総合起工式が挙行されたのが1969年で、それから50年が経とうとしています。その間、研究学園都市は筑波大学をはじめとし、多くの国および企業の研究機関・拠点、研修機関・拠点が集積、発展してきました。最近では、学園都市内の積極的な共同研究・教育も行われるようになってきましたが、社会的な課題や科学技術が直面する課題の克服に対する貢献は十分とは言えません。そこで、今年で8回目となるTsukubaGlobalScienceWeekを発展させる形で、国内はもとより海外からも多数の若手研究者、大学院学生などが参集し、社会と科学に関するさまざまな課題について討議する「筑波会議」を2019年に開催するための下準備をして参りました。その本格的な準備に向けて、本日付けで教職協働型の業務チームが立ち上がりましたので、皆さんのご協力をお願いいたします。

 最後に、本学の未来への想いを述べさせていただきます。1800年代の後半からの150年程度の間に、急激に、しかも同じような伸び率で変化した指標が多々あります。CO2濃度、人口、寿命、あるいは所信の冒頭でも述べた国民総生産など、他にも数々あります。産業革命以降の、産業・経済の発展、食糧事情・衛生環境の改善、移動・物流の進歩などの因果関係を議論するまでもなく、それらは相俟ってこうした指標の変化に繋がっています。考えてみれば、これらの変化をもたらしたものは量の秤で量れるものです。豊かな未来を築く観点からは、こうした量の秤で量れるものの増減は重要です。加えて質を保証する尺度で測れるものの変化に影響を与えるものが十分条件だと思われます。量で測れるものと質で議論をするものは、物質と精神と言い換えることもできる部分があります。高等教育に関わる者が、少なくとも学問の、あるいは教育と科学・技術の品格について考えていくことは大切です。国が創設した最も古い高等教育機関を創基とし、最も新しい研究型国立総合大学として大学改革の旗手を旗印に誕生した本学の誇りを胸に、国を支え、世界の未来創造に資する研究教育に携わる教職員にとって、それは基本的なマインドであるはずです。これらの想いを教職員の皆さんと共有し、研究教育の未来に向けた先制の道を共に歩んでいきたいと思います。

このページのトップへ