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「知の拠点」としての国立大学の危機

(2010.10.04)

 平成23年度予算は,緊縮財政の中,社会保障費を除く政策的経費は大幅な削減が見込まれています。大学への予算も例外ではありません。勿論,我が国が置かれている経済・財政の危機的状況に照らし,政府が目指す強い経済,強い財政,強い社会保障は是非実現されるべきものです。さて大学の未来に対して,皆さんはどのようにお考えでしょうか。社会全般が苦しいときに大学も応分の痛みを分かち合うべきという考え方もあります。一方,大学は社会の未来を担う人材を育成し,科学・技術発展の原動力,社会の心であり,その衰退は我が国の未来を危うくするという危機感が強く表明されています。
 天然資源の乏しい日本の今日までの発展は,優れた人材と科学技術・学術が原動力になってきましたが,明治維新以来,大学はその発展のエンジンとして中核的な役割を担ってきました。多くの困難な課題に直面している変革の現代では,「知の拠点」としての大学の真価が再び問われています。しかし医師である私には,国立大学法人化から6年を経た現状は,医療分野で起こったことを再現し始めているように見え,危惧を感じざるを得ません。教員の負担が飛躍的に増加した結果,教育・研究現場から疲弊・多忙の声が聞こえてくるからです。
 教育や研究では,効率とは対極的に課題をじっくり議論し本質を見極めることや,仮説に基づく周到な科学的検証を大事にします。人間相手の教育では促成栽培というわけには行きません。しっかりと育てる必要があります。研究は試行錯誤の連続です。失敗や無駄を恐れていて成功はありません。失敗からの大発見もしばしばあります。若者の可能性を最大限に開花させる努力も大事な使命です。若者たちがのびのびと自分たちの将来を考え,試行錯誤するチャンスがもっと開かれるべきです。若者たちが自分の道を見つけ,充実感のある人生を送ってもらいたいからです。諸外国では,国家戦略として大学への支援を急増させていますが,日本では大学予算を削減し,OECD加盟国で最下位という有様です。このまま大学というエンジンを消耗させて,日本の未来,人材育成,科学・技術は大丈夫でしょうか。学術論文も減っています。医療崩壊の危機を教訓として生かして,大学を衰弱させる前に日本のエンジンを強化すべきです。主要大学への公的研究費は米国の1/40でしかありません。苦しいときこそ,未来のためにじっくりと人材育成と学術研究に努力を傾けるべきです。培った人材と研究成果の恩恵を受けるのは,未来の私たちです。
 政府は平成23年度予算の編成過程で,広く国民目線での自由な意見を求める試みとして,「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリックコメントを実施しています。国立大学法人の運営費交付金も含まれています。国民の意見は,今後政府が政策の順位付けを行う際の基礎資料として活用されることになっておりますので,国立大学の関係者はもとより,幅広く国民の皆様からのご理解とご支持を頂き,高い評価を受けることが重要です。
 是非とも国民の皆様方からの積極的なご意見をお願い致します。

筑波大学長 山田信博


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