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大学案内

「固定化」した社会や価値観を変える

「固定化」を再考する

 本年4月、本学は指定国立大学法人となります。また、第4期中期目標期間も始まります。これまでの第3期中期目標期間では、本学が丹精を込めて培ってきた強みである「国際(性)」と「学際(性)」を基軸として大学の諸活動を進めてきました。指定国立大学法人の目指すところは、地球規模課題を解決する真の総合大学に向けて発展することです。その構想調書の中で、様々な学問分野が協働して研究や教育を遂行することを総合大学の必要条件と考え、そして真の総合大学の十分条件を、予測不可能な時代の未知の危機に取り組み、既存の学問分野だけでは解決できない課題に挑む新たな学問分野を創成することと定めました。第4期中期目標・中期計画は、構想調書に書いたことが基盤となっています。中期目標・中期計画は、大学執行役員である系長を通じて、全学の意見を求め、策定しました。ご協力に感謝するとともに、中期目標・中期計画に掲げた諸施策の実現に向けて全学的な協力を得ながら取り組んでいきたいと考えています。

 中期目標の前文に、「多様な格差や分断が顕在化する予測不能な時代において、筑波大学は怯むことなく『あるべき未来』を自ら描き、大学及び社会の停滞や固定化を打破する」と書きました。この文章は、本学の建学の理念を意識したものであることは言うまでもありません。昨年4月の学長所信表明で、建学の理念の中で、これまでに取り上げられてこられず、かつ現在的な重要性を持っている部分の一つとして、「従来の大学は、ややもすれば狭い専門領域に閉じこもり、教育・研究の両面にわたって停滞し、固定化を招き」という箇所があることを指摘しました。そして「固定化」には、「大学の序列」をはじめ、「利益追求に固定化された企業等のあり方」、「我々自身の価値観の固定化に起因する社会の分断」などの様々な側面があり、固定化された社会へのチャレンジが大学、特に本学に求められているとの認識を示したうえで、大学を社会変革のエンジンと表現しました。固定化した社会を変えるにはどうしたらよいでしょうか。

学長 永田恭介
学長 永田恭介

格差と分断

 たとえば、日本社会の男女の格差は固定化していると考えざるを得ません。世界銀行が2022年3月1日に公表した男女格差調査によれば、職業や育児、年金などの項目の評価の総合点で、日本は、190ヵ国・地域の中で、昨年の80位から103位まで順位を下げました。内閣府が令和元年度に行った「男女共同参画社会に関する世論調査」によれば、社会全体で、「男性の方が優遇されている」と答えた人は74.1%、「平等」と答えた人は21.2%、「女性の方が優遇されている」と答えた人は3.1%でした。どのような場面で男女の地位が「平等」になっているかという問いには、「学校教育の場」が61.2%、「家庭生活」が45.5%であるのに対して、「法律や制度の上」が39.7%、「職場」が30.7%、「社会通念・慣習・しきたりなど」が22.6%との回答が得られ、職場や政治では男女の格差が強く残っていることが見てとれます。男女格差は、社会通念や慣習、しきたりなど、人々の意識・価値観の面に強く残っています。同時に、半数以上の人が、法律や制度にも男女格差があると捉えています。男女の格差をなくしていくには、制度・システムと人々の固定化された観念を変えていく必要があるということです。たとえば、管理職の一定の割合を女性にするアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)は、制度・システムの変革です。女性のライフイベントに対応できる環境整備は、日本の少子高齢化を改善することにも繋がっています。そして、人々の意識や価値観、行動も変わっていかなければ、その制度・システムは、逆差別として怨嗟の対象となる可能性もあります。男女格差以外にも、今日の社会には、教育の格差、所得・資産の格差、世代間格差、地域間格差、情報格差など、多様な格差があります。

 分断は、民族や人種、宗教、イデオロギー、価値観などの違いによっても生まれます。古来、集団で助け合って生活してきた人間は、自分たちの帰属する集団への忠誠が求められる反面、他者の集団には敵意が動員されることがあるため、集団間に分断と対立が生じることが少なくなく、戦争や紛争が起こる要因にもなります。格差や排外意識を利用して分断を煽り、既得権益層を攻撃して対立と憎悪を掻き立て、勢力拡大を図るポピュリズムの政治家も登場しています。コロナ禍により、飲食業・宿泊業、運輸業などを中心に所得が減少しており、所得格差が増大しています。我々は、今日の社会において格差や分断が固定化している理由を学術的に明らかにし、その解決に取り組んでいかなければなりません。

固定化に挑戦する

 日本では、徐々に変化しつつあるとはいえ、依然として、世間の評判やブランドイメージの良い大学に入れば、就職活動時の学歴フィルターとして有利に働くという意識が人々に強く埋め込まれています。人々は、大学入試の受験生の親になることもあれば、企業で大学の卒業生を受け入れる立場になることもありますが、自分たちが受験した当時の大学の難易度、評判・ブランドイメージを記憶し続け、それらはなかなか新しい情報によって上書きされることはありません。こうしたことを変えていくために最も大切だと考えていることは、新しい価値を創り出し、それを基準に固定化された概念を再構築していくことです。新しい価値の創出は、制度や人々の意識を変えていきます。大学が将来にわたって存続するためには、研究や教育を通して新しい価値を生み出すとともに社会的な役割を果し続けていくことが不可欠です。

 指定国立大学法人に指定されたことは、新しい価値創造に向けての追い風です。指定国立大学法人は、日本の教育研究水準の著しい向上とイノベーション創出を図るために、世界最高水準の教育研究活動の展開が見込まれる国立大学を文部科学大臣が指定するものです。本学は、「研究力」、「社会との連携」、「国際協働」の3つの領域で国内最高水準に位置していることが認められ、今後、世界の有力な大学と伍する世界最高水準の教育研究活動を展開していくことが期待されています。前述したように、第4期中期目標・中期計画は、指定国立大学法人構想調書に書いたことが基盤となっていますから、計画に述べた諸施策は確実に実現させていかなければなりません。

 以上を踏まえて、以下に真の総合大学を目指した教育、研究、社会貢献の推進方策について述べます。

教育システムの固定化への挑戦

[学士課程教育を真の学位プログラムへ]

 学士課程の教育について、中期目標には、「深い専門性と幅広い教育を行う学位プログラム制を通じて、課題を設定して探究するという基本的な思考を身に付けさせる」と書いています。これに従って、教員と学生が学問的な問題を設定して議論を重ねるチュートリアル教育の開始、デザイン思考の修得、学士課程の内部質保証の実質化などを進めていくことになります。また、学生宿舎をチュートリアル教育や社会との共創などにも対応できる形態に整備する事業にも着手していきます。

 本学の教育において、本学が開発した学群・学類の教育システムも固定化しているのではないでしょうか。本学の基本的な考え方は、我が国で初めて導入された教・教分離を全面的に活かしたいわゆるナンバー学群と呼ばれていた文理横断の広い視野を養う学位プログラム型の学群編成でした。これが、開学34年が経った2007年に現在のディシプリン型の学群編成に変わりました。直前には、大学院重点化に伴い、教員は学系から研究科へと所属が変わり、やがて学系は廃止されました。つまり、筑波大学の組織は、「新構想大学」のそれではなく、既存の新制大学群と同様のものとなってしまいました。ディシプリン型による学士課程教育は、学生に専門力を身に付けさせることについては効果を上げてきましたが、授業科目数が多く、個々の教員が自分の教えたいことを教え、プログラムとして十分には機能していないように見受けられます。学類の人材養成目的やアドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーはすでに策定しているという声もあるでしょうが、学類によっては複数の学位を出しているところもあります。授業科目を精選し、課題ベースの学修(PBL: Problem/Project Based Learning)やチュートリアル教育を積極的に導入して、学類を真の「学位プログラム」として、再活性化すべきであると考えています。モニタリングやプログラムレビューは、そのような見直しのためのものです。学群は、学類の寄せ集めではありません。学群の理念・方針に従い、学群長のリーダーシップの下で、各プログラムはその特色を大いに発揮していただきたいと考えています。

[大学院学位プログラムの充実]

 大学院重点化の流れの中で、本学では2004年に教員が博士課程研究科・専攻に所属する体制に移行しました。これにより開学以来の教・教分離の考え方が弱まりました。しかし、2011年に教・教分離を復活させ、教育面では、2020年から国内初の全学的な学位プログラム制への移行を実施し、大学院8研究科を3学術院へと再編しました。今年度、大学院の学位プログラム制への再編時に入学した博士後期課程の学生が3年生となり、初めて修了することになります。今後、大学院教育を一層充実させ、全学横断型の新学際創造学術院(仮称)の設置も視野に入れ、先進的な高度学際型教育を推進する計画です。

 博士前期課程から博士後期課程への進学者を増やすことは、我が国にとっても本学にとっても重要なポイントです。そのためには、修学期間の経済的な支援と学位取得後のキャリアの充実が大きな課題です。昨年度、「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」における博士後期課程学生支援(生活費相当180万円を含むフェローシップ)として本学は31人分の枠を獲得しました。JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の「次世代研究者挑戦的研究プログラム~博士後期課程学生支援プロジェクト~」には、本学の「学問分野の壁を超えて多様な人材と共創できるトランスボーダー型価値創造人材育成プロジェクト」が採択され、351人の博士後期課程の学生に研究専念支援金を支給できることになりました。本学は、学生数あたりでは、3番目に多くの学生が対象となった大学です。今後は、大学ファンドからも、博士後期課程への支援が充実されることとなっています。

 博士後期課程は学位プログラム化されていますから、従来の専攻とは異なる考え方が必要です。修了生が適正なキャリアを積めるように、単にアカデミアにおける研究職だけではなく、多様な将来像が描けるような工夫です。中期計画には、「民間企業等の新規事業の創出・成長を牽引して、将来の企業等を背負うトップマネージャーとなる中堅クラス等を対象とした最先端教育プログラムを開発する」と記しました。これまでに取り組んできている博士後期課程の早期修了プログラムや、生命科学・工学系分野の民間企業・研究開発法人等との協働による学位プログラム(協働大学院方式など)を一層充実させ、さらに他の分野でも協働大学院方式は有望だと考えています。また、「社会人大学院課程に新たな数理・データサイエンス・AIを基盤とした経営に資する教育プログラム」をつくる企図も中期計画に書き込んでいます。なお、数理・データサイエンス・AIは、これからの社会にとって不可欠な一般教養教育であり、このほど分野融合型数理・データサイエンス・AI教育推進本部を発足させました。学士課程・修士課程・博士課程の各教育組織は、推進本部とも連携しつつ、それぞれのカリキュラムに、リテラシー、応用基礎、応用の各レベルの数理・データサイエンス・AI教育を有機的に組み込むことを目指します。また、中期計画には、「人文社会ビジネス科学学術院に研究者養成の法学系の博士後期課程学位プログラムを再組織化」すると記しました。これまでにはない新たな視点による研究者養成の法学系大学院づくりを関係者の協力により目指します。

 ちなみに、運営費交付金の「成果を中心とする実績状況に基づく配分」の指標の一つとして、学士課程、修士課程(博士前期課程、専門職学位課程)、博士後期課程(一貫制博士課程)の卒業・修了者の就職・進学率が定められています。このうち学士課程、修士課程の就職・進学率が低く、86国立大学全体に占める本学の偏差値は50を切っています。これは、大変大きな問題です。各教育組織は、進路の決まらない卒業・修了者を極力減らし、学籍を離れた後も卒業・修了者の進路をフォローする必要があります。このフォローアップは、中期計画で述べている「卒業・修了後のネットワーク化」の促進にも資するはずです。

[学群入試と教育制度の見直し]

 学群入試はある意味で固定化した部分であり、その根本的な見直しも必要ではないでしょうか。「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(中教審答申、平成26年12月22日)」の骨子は、高等学校段階の学力を、高等学校基礎学力テスト(仮称)、大学入学希望者評価テスト(仮称)によって見極め、各大学のアドミッション・ポリシーに従った選抜方法による個別選抜を行うことでした。大学側の教育内容について再考する部分があることも想定しています。本学によく適合した学生を選抜することが個別選抜の本旨ですから、本学の教育研究に対する姿勢を理解し、我々が授けるディプロマを取得するためのカリキュラムに適合する者を選抜するための方法を根本に戻って考えるべきです。学士課程では、個別学力検査、推薦入試、AC入試、外国人特別選抜などを行っています。それらは、それぞれ、少なくとも多少は異なる選抜方法をとっています。アドミッション・ポリシーには違いはないはずなので、異なる選抜方法をとることで果たして本当によいのか、考えてみなければなりません。大学の入試を変更する場合には、2年前には予告・公表することが義務づけられています。制度改革の議論をし、制度を作り上げるまでを考えると、根本的な入試改革には数年、あるいはそれ以上のスパンが必要です。特に、40歳代以下の教員の皆さんは自分事として今から考え始めないと10年後にも間に合いません。こうした改革によって既存の固定化された偏差値に依存した試験を脱却することにより、本学が真に求める学生が入学してくる可能性が高まります。ちなみに、マレーシア分校設置に向けた取り組みは、我々の3つのポリシーを、これまでに背景を持たない地域にさらし、評価を受けるということであるとも考えられます。マレーシア分校の設置に向けては、第4期中期目標期間中に継続して取り組んでいきます。

 固定化された6・3・3・4制の教育制度について考えるようになりました。米国では、医学や法学は大学院で学ぶものであり、大学での専攻は問われません。医学教育システムについては、大学を卒業した学士がメディカルスクールに入学して4年間で臨床を中心とした医学教育を受けるシステムとなっています。したがってメディカルスクールは専門職大学院相当と考えられます。このようなシステムとなっている理由は、医師養成課程は他の4年制の高等教育課程に比べて学ぶことがより多く、加えて高校卒業の時点で医師の適性を見極めるのは困難だということにあります。また、医師養成課程は極めて多忙であり、高校卒業者を対象とした場合には社会的な問題への関心・視野が育ちにくいと考えられていることもあります。ここに挙げた理由づけは、学ぶことが多岐にわたることを含めて、現在の4年制の高等教育課程にもあてはまるのではないかと考えます。真に幅広い知と高度な専門性を涵養するために、学士課程と修士課程をマージするというような考え方は、各分野において、一度ならず、何度も議論されているに違いありません。その多くは、4年+2年での教育課程を考えているのでしょうが、2年+4年という考え方はどうでしょうか。幅広い教養を涵養する2年間の前期高等教育課程と高度な専門性を身に付ける4年間の後期高等教育課程を考えています。これには、学制の改革、すなわち法改正を要するので、すぐにできることではありません。それなら、6・3・3・4制を見直すために、附属高校などと連携して、弾力的な入試制度や飛び級制度、一貫教育などを採り入れる変革を考えることも可能です。なお、中期計画では、附属学校と本学が連携して、オンラインによる履修を含め、「先取り履修・単位認定システム」を構築することとしています。折よく、高校生が、高校在学中に大学の科目等履修生として修得した大学の単位を大学進学後、卒業所要単位とすることもできるようになりました。各学類・専門学群は、附属学校に限らず、全国の高校生に、本学の学問の魅力を積極的にアピールし、高大接続の新しい道を探る必要があります。高等教育をよりよい制度に変革することこそ、大学あるいは社会の固定化を変える力となるはずです。

研究力の強化と研究支援の革新

[研究システムの改善]

 本学が目指しているのは、地球規模課題の解決と未来地球社会の創造に向けた知の創出です。今日、国立大学には、デジタルトランスフォーメーション(DX)によるSociety 5.0の実現、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策などを含む次世代ヘルスケアの推進、カーボンニュートラルへの取組、持続可能な開発目標(SDGs)の実現などに積極的に取り組んでいくことが求められています。本学も、これらの課題に果敢に取り組んでいく必要があります。SDGs及びその後に来るbeyond SDGs、ならびにカーボンニュートラルに関わる調査、発信、戦略立案を行うために、本年4月、DESIGN THE FUTURE機構を設置します。

 研究循環システムにおいては、それぞれの研究体をR1(世界級研究拠点)、R2(全国級研究拠点)、R3(重点育成研究拠点)に分類し、それぞれの級に応じた支援を行い、5年ごとの評価で改廃することとなっています。国際的に卓越した研究拠点の形成と新分野の創出を推進するために、新たにRS(世界先導研究拠点)を設けます。この拠点は、グローバルステージでの共同利用・共同研究を推進します。加えて、研究体インキュベーターとしての学術センターを立ち上げる予定です。このシステムからは、西アジア文明研究センター、宇宙史研究センター(朝永センター)などが生まれてきました。

 国内外の優秀な研究者を獲得・育成し、国際的な頭脳循環を加速しなければなりません。若手研究者育成については、2013年に研究大学強化促進事業に採択された際に立ち上げた研究力強化実現構想に基づいた国際テニュアトラック制度を引き続き、進めます。若手教員のテニュアトラック期間中に2年以上、海外の一流研究者との共同研究に専念する機会を与える制度です。スーパーグローバル大学創成支援事業の一環として海外トップ研究者が率いる研究ユニットを本学に招致する事業(海外教育研究ユニット招致プログラム)では、これまでに累計8つの研究ユニットが招致されており、今後もこの取組を進めてまいります。この2つの事業の優れた部分を模範として合わせた国際共同研究加速基金という事業が、日本学術振興会の科学研究費助成事業の一つとして今年度より始まります。

 研究環境整備についても力を入れる必要があります。研究設備については、概算要求などを通じて維持、拡充を図るだけではなく、個々の研究者、組織が持つ設備のオープン化を推進していかなければなりません。現在でも、本学は、学内共同利用のみならず、TIAのような学外組織との協働においても機器を共同利用する良い取組を進めており、設備のオープン化の動きを牽引しています。幸い、本学は、令和3年度先端研究基盤共用促進事業(コアファシリティ構築支援プログラム)に採択されました(令和2~3年度で15大学が採択)。これを機にオープンファシリティー推進機構を立ち上げ、この観点からの取組をしっかりと進めていきます。

 研究支援においては、技術職員の高度化とともに処遇についても再考する必要があります。URA(University Research Administrator)もかなり大学に定着してきました。昨年は、RA協議会(一般社団法人リサーチ・アドミニストレーション協議会)の第7回年次大会をつくばで開催し、URAの課題を共有しました。その課題を突き詰めていくと、教員、職員に続く「第三の職」とでも呼べる高度専門職人材全体に関わる問題、すなわち職位、キャリア形成、キャリア循環などの問題に行き着きましたので、その抜本的な改善のために本学こそが立ち上がるべきだと考えています。ちなみに、教育、研究、国際活動、産学連携などについて、大学全体の考え方とリソースをそれぞれの現場の実情に合わせて効率よく所管を越えて活用するために、また学生の要望に始まるボトムからの意見を大学へ届けやすくするために、URAとUIA(エリア・コモンズ)に加えてUEA(University Education Administrator)を設置し、教育組織などに配置する可能性について検討しています。

 そして最も重要なことは、各研究者の研究力向上です。本学は、運営費交付金の「成果を中心とする実績状況に基づく配分」の指標のうち、運営費交付金等コスト当たりTOP10%論文数、常勤教員当たり研究業績数、常勤教員当たり科学研究費獲得額・件数の順位が、いずれも指定国立大学法人グループの下位になっています。これらの研究に関する配分指標の数値の低迷が、本学の運営費交付金の減額につながっています。大学として考えなければならないのは、新たに雇用する教員の選抜と各研究者の研究時間の増加についてです。前者については、功成り名遂げたシニアの教員採用には期待するところが大きいのですが、一方で若手の雇用に際しては、その方に今後の30年間の本学をお任せする覚悟が必要です。後者については、働き方改革の影響もあり、確実に教員の実働時間が減っています。授業科目数の削減、入試業務の外部委託、あるいは学内会議の削減、部局マネジメントの部局長への完全委任など、各部局にあった方策を見出すことが必要です。

[ニーズドリブン型産学共同研究の推進]

 社会変革につながる共創的なイノベーション創出を目指して、地域社会から地球規模までの様々な社会課題を解決し、より良い社会の実現に寄与するために、現実社会における実践に向けた開発研究を行うとともに産・学・官の壁を越えたニーズドリブン型産学共同研究を推進します。実際に、2014年に国際産学連携本部を設置して以来、その当時の数倍の産学共同研究受入額を達成しています。我が国では、企業との共同研究や大学発ベンチャーは、シーズドリブン型のものが多く見られましたが、企業や社会のニーズから出発するニーズドリブン型産学共同研究を推進する必要があります。本学では、そのために企業のR&D(研究・開発)研究所を誘致し、企業が、本学の人材や設備・備品を活用して開発研究を推進するBusiness to Academia(B2A)研究所を設立します。以前にも述べたように、米国や英国のトップ大学の論文被引用数は、産学共著論文>国際共著論文>国内共著論文>学内共著論文>単著論文の順です。被引用数の高い産学共著論文は、社会のニーズに関わる課題が解決されることの指標の一つとなります。また産学共同研究は、欧米では基礎研究から始まり、企業などからの投資・寄附を引き寄せているということも指摘しました。これらは、固定化された従来の考え方と異なるものです。ニーズドリブン型産学共同研究を推進するスペースとして、IMAGINE THE FUTURE. Forum(ITF. Forum)(仮称)建設事業にも着手します。さらに今年度の早い時期に、ITF. Forumの運営をはじめ、技術開発や市民活動、健康増進などの支援によって社会のニーズに対応できる組織として、本学が100%出資する外部法人・つくばツインスパーク株式会社(仮称)を設立します。

 さらに、本学は、文部科学省の令和3年度科学技術人材育成費補助事業「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」の実施機関として選定され、若手研究者育成支援室を司令塔として「大学×国研×企業連携によるトップランナー育成プログラム」を開始します。このプログラムでは、国内トップクラスの研究環境を有する筑波研究学園都市の強みを最大限に活かし、大学×国研×企業との協働により文理の壁も超えた世界を先導する研究者育成プログラムの開発と実装を行います。

エンゲージメント強化

 エンゲージメントは、大学が一方的に何かを約束したり、あるいは大学に対して一方的に何かを約束させたりするのではなく、大学と多様なステークホルダーが互いに貢献し合うことだと考えています。筑波大学にとって地理的な意味での地元は、つくば市、あるいは茨城県であり、本学はその教育、医療、産業、文化などに対して大きな責務があると認識しています。加えて、筑波大学にとってその使命を果たすべき密接な社会は、筑波研究学園都市であり、国際社会であるとも考えています。

[社会との繋がり]

 学内において社会と密接なつながりを持って活動している組織の一つである附属病院は、高度医療の実践や医療技術の開発という大学病院としての使命と、茨城県唯一の特定機能病院としての地域医療の使命を持っています。昨年、附属病院は、延べ約1,400人の重症及び中等症のコロナ感染患者を受け入れて治療にあたるとともに、ワクチンの職域接種にも積極的に取り組んできました。高度先進医療に関しては、次世代型粒子線治療装置の実用化を含めて超先端的医療研究開発拠点を形成し、データサイエンス・AIなどによる研究開発基盤を構築することにより、最先端医学の研究成果の社会実装に向けた共創の場となることを目指しています。今後の課題の一つは、筑波大学つくば臨床医学研究開発機構(T-CReDO)を中心に展開されている臨床研究を推進し、ワクチン開発研究や創薬研究で大きな発展を目指す臨床研究中核病院認定を獲得することです。地域医療に関しては、地域医療教育センターを核として地域医療に貢献することを掲げています。

 社会と密接に繋がっているもう一つの組織である附属学校の使命は、大学と連携し、学校教育機能の向上を図る研究を進め、その成果をもとに、全国あるいは地域における初等中等・特別支援教育ならびにグローバル人材育成教育を先導するとともに、インクルーシブ教育システムを構築することにあります。附属学校の根本的な使命の実現を目指す教職員の努力に敬意を持って期待いたします。前述した先取り履修・単位認定システムの構築による高大連携モデルづくり、またインクルーシブ教育を実践するための新しいマネジメント体制の確立などに取り組んでいきます。

[筑波研究学園都市との連携協働]

 本学は、筑波研究学園都市の研究所、自治体、企業などとの連携により、地球規模課題の解決、またSDGsの達成やグリーンリカバリーの振興につながる教育研究を進めてきました。これからの大きな課題の一つは、その成果を社会実装に結びつけることです。つくばは、コロナ禍もあってか、東京からの移住者が増加しつつある街の一つです。知識集約型社会化し、同時に東京一極集中でなく地方分散型社会への道程にあるからかもしれません。つくばに住む者がイノベーションの恩恵を感じられ、国際社会と密接につながっている街づくりを進めることも重要です。つくばは、世界各地の科学技術都市に立地する研究機関、大学、企業等が集まる国際会議High Level Forumに参加する日本唯一の街です。本学は、つくばをオープンイノベーションが展開できるプラットフォーム及び実証実験フィールドに成長させることに貢献したいと考えています。つくばは、2011年に国際戦略総合特区に指定され、最近では新モビリティ推進事業を受託するなど、筑波研究学園都市は、未来都市創成のための実験場になろうとしています。つくばは、昨年度末には厳しい競合を勝ち抜いて、国家戦略特別区域諮問会議(議長・岸田文雄首相)から、スーパーシティ型国家戦略特別区域として指定されました 。スーパーシティ構想とは、より良い未来社会を実現することを目指し、データサイエンス・AIの活用とそのための規制・制度改革を推進し、様々な最先端サービスを地域社会に実装していく取組です。本学は、国際産学連携本部のオープンイノベーション国際戦略機構に設置されたTsukuba Science City Laboratoryを中心に、未来社会工学開発研究センターの参画を得て、この構想の実現に向けて貢献してまいります。

[ウィズコロナにおける国際交流]

 第3期中期目標期間の旗印の一つは、国際性の涵養でした。国際的互換性のある教育と世界トップレベルの研究を推進するスーパーグローバル大学創成支援(タイプA)事業(SGU)で始めたCampus-in-Campus(CiC)や海外拠点の活用による世界中の大学、研究機関、企業、自治体などとの双方向の活動の展開、海外派遣を必修とした教育プログラムの拡大、学生の海外派遣支援事業の拡大、教育研究コンテンツの世界発信などは、引き続き、進めていきます。特に、現地の大学のみならず中等教育機関への働きかけなどを通じた優秀な外国人学生のリクルート、海外からの研究資金の拡充などには力を入れていかなければなりません。日本人学生の英語コミュニケーション能力、外国人学生の日本語によるコミュニケーション能力を向上させて、日本内外のアカデミアや産業界で活躍できる人材の育成の重要性は認識されているはずです。CEGLOC(グローバルコミュニケーション教育センター)の特段の強化策、特に日本語・日本事情などに関する教育の我が国におけるセンターとなる努力が必要です。

 COVID-19により、この2年間、日本と外国との間の往来に厳しい制約が課されてきました。2021年秋には外国人留学生の新規入国が段階的に拡大する見通しでしたが、オミクロン株の流行拡大によって水際措置が再強化され、頓挫してしまいました。今後、段階的に水際措置が緩和されていくことになると思われますので、多くの外国人留学生の来日を心待ちにしています。一方、オンラインをコミュニケーションツールとした方法にも慣れてきましたから、このメリットを活用した活動も展開されていきます。日本の国公私立大学が、英語、日本語を問わず、内外にオンデマンドコースを配信する高等教育プラットフォームJV-Campus(Japan Virtual Campus)のパイロット事業が今年度、始まります。この事業は、SGUで本学が開発した科目ジュークボックスをひな形に、文部科学省が主導するもので、本学の国際局が、教育推進部の協力を得て、事務局となっています。

 海外への日本型及び本学型の教育輸出は、諸外国の同様の活動に遅れをとっています。日本及び相手国政府の肝いりで進められている日越大学、マレーシア日本国際工科院(大学院)(MJIIT)、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)には、本学からも参画していますし、トルクメニスタン、ウズベキスタンからの高等教育課程創設の要請にも、いくつかの大学と協働して活動を進めています。関わっていただいている教職員には感謝いたします。本学は、マレーシア分校の設立によって、日本(本学)の学位を出すことができる本邦初の大学となります。設立に向けた努力を続けているところですが、開学後の運営には国内外からの協力、海外からの観点では特に本学修了生の多い近隣地域からの協力が必要であると認識しています。

経営体としての大学への転換

[オペレーション・アドミニストレーションから真のマネジメント・ガバナンスへ]

 本学の将来にわたる教職員構成、特に教員構成には憂慮すべき点があります。具体的にはジェンダーと年齢の分布において適正なバランスがとれていないことです。今年度の運営費交付金の基幹部分は相当に減額されてしまいましたが、人件費については従前の嵩、あるいは部局・大学の計画が遂行できるようにするという点では従前以上の嵩となっています。こうした問題を改善するため、全学の教員組織(系・重点研究センター)の長が中心となって構成されている人事企画委員会と任用部会を通じて最適な配分を行うため、新たな任用方式を採り入れる予定です。優秀な若手については、テニュアトラック期間5年を短縮してテニュアを与える方策も盛り込まれています。人事ポイントの循環型方式を進めていき、それによって、2040年までに累計900人の若手研究者の雇用が可能になると試算されています。女性任用におけるアファーマティブ・アクションについてもご理解をお願いいたします。

 近年、国立大学法人法、学校教育法、大学設置基準などの改正が行われています。たとえば、副学長の職務(学校教育法第92条第4項)は、「学長の職務を助ける」から「学長を助け、命を受けて校務をつかさどる」に改正されています(「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律」〔平成26年法律第88号〕及び関連省令)。本学は副学長の発祥の大学であり、従前から副学長には改正後の役務が与えられていたと考えています。現在、法制上の旧の副学長の役務は、系長を含む大学執行役員が担っています。事務職員(大学設置基準第41条)については、「事務を処理する」から「事務を遂行する」へと改正されました(「大学設置基準等の一部を改正する省令」〔平成29年文部科学省令第17号〕)。改正の趣旨は、大学の業務が複雑化・多様化しているため、事務職員・事務組織等が、大学運営の改善に一層の積極的な役割を担い、大学の全体の機能を強化して総合力を発揮する必要があるからだとされています。したがって同時に、「教員と事務職員等との適切な役割分担の下で、これらの者の間の連携体制を確保し、これらの者の協働によりその職務が行われるよう」にすることも追加されました(大学設置基準第2条の3)。本学でも、教職協働は広まりつつあります。そろそろ職員が座長を務める教職協働会議が出てきても良い頃です。

 大学には教員と職員しかいないというのが固定化した常識でしたが、これまでの教員・職員とは役割も働き方も異なる方々が多数います。技術職員はもとより、ようやく定着し始めたURA、エリア・コモンズ、さらにはコーディネーター、トレーナー、ファンドレイザー、これから設置を考えるリサーチエンジニアなど、その職種は極めて多様です。前述したように、昨年、RA協議会の第7回年次大会を本学で開催し、URAに関する課題とその解決に向けた議論を行いました。本学では、こうした専門職人材の役割を明確化し、就業規則上に「第三の職」として確立するともに、全国的な取組と呼応し、またそれを先導して、各職のキャリアパス構築に貢献したいと考えています。

[アカウンティングからファイナンスへ]

 本学の事業は、以前から、運営費交付金だけに依存していたわけではありません。たとえば、昨年度の運営費交付金は360億円程度ですが、総事業費は1,060億円となっています。総事業費は、運営費交付金が減額される中、この10年間で平均年3%弱の成長をしてきています。指定国立大学法人の中では、2番目か3番目の成長率です。ちなみに、本学の令和4年度の運営費交付金予算額は、前年度から3億円減の356億円です。予算額を大きく減少させたのは、基幹経費の中の「成果を中心とする実績状況に基づく配分」です。これは、教育、研究、マネジメントに関する定量的な指標を用いて、指標ごとの順位づけによって決められるものです。特に研究関連の配分指標での評価が低かったことが原因です。

 社会保障費が確実に増加すると同時に18歳人口が減少する中、国からの資金は着実に減少していくと考えざるをえません。競争的資金、産業界や自治体からの共同・受託研究費は貴重ですが、使途が限定され、時に大学からの持ち出しが必要な資金です。外部からの資金獲得に関して、欠けている重要なポイントの一つは、教育への投資誘導です。教育の効果が目に見えるようになるには時間がかかります。研究に対する投資に比べ、企業に効果が見えづらいところが、教育に対する投資が苦戦する主な理由です。しかし、教育への投資は無理だということも固定化された考えではないでしょうか。学生宿舎エリアに建築を計画している未来社会デザイン棟(仮称。「棟」よりも「塔」にした方がシンボルとしての意味が明確に表現できるかもしれないと思っています。)は、学生が社会からの投資を感じ、社会の実相と対面できる場所であり、こうした場所からの発信が、教育への投資にとっての重要な方策の一つだと考えています。

 指定国立大学法人構想調書では、様々な方策を提案しています。B2A研究所設立の効率を上げるためには施設と税制の規制緩和が有効です。ベンチャーエコシステムは、アントレプレナー教育からIPO(新規公開株)あるいはM&A(企業の合併・買収)までを支援し、大学発ベンチャーへのファンド誘導は、年当たり数十億円に達し、大学への還元も始まっています。学生や教職員へのさらなる機会提供が鍵です。外部法人の設立とその法人への支出が、昨年度末、ようやく認められました。この法人の大いなる活用も進めていきます。本学が自らファンドを設立するための準備もかなり進んでおり、今年度中には立ち上げが可能だと考えています。土地や施設の有効活用については、東京キャンパス周辺地域を中心に考えており、附属学校キャンパスや手持ちの教職員宿舎の高度活用を行う時期に来ています。近隣の国立大学附属学校との連携を強化し、機能とマネジメント強化を実現する方策も可能かもしれません。

 大学債起債への準備も進んでいます。大学債によって調達される資金もさることながら、大学債の重要な点は、本学の社会とのエンゲージメントの構築ということです。大学のステークホルダーを学生や教職員だけだとする固定化された考えは、もはや過去のものであり、それ以外にも、学生の保護者、卒業生・修了生、受験生、企業・産業界、寄附者、投資家、国・自治体、アカデミア、地域住民、国民、国際社会など、様々なステークホルダーがいます。これらのステークホルダーと大学との関係は一様ではありませんが、それぞれのステークホルダーに対して、情報を発信し、エンゲージメントを作っていくことがエンゲージメントの構築であり、まさにそこに大学債を起債する意義があります。本学は、財務の健全性やガバナンス、経営状況に対する客観的な評価を得て資金調達を行うことを目的に信用格付を獲得することとし、このほど株式会社日本格付研究所(JCR)様よりAAA、株式会社格付投資情報センター(R&I)様よりAA+の格付を得ることができました。

 上述した施策に加えて、世界トップの研究大学を実現するためにJSTに設置される10兆円規模の「世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンド」に挑戦することを前向きに検討しています。このファンドを獲得するには、「国際卓越研究大学」(仮称)として認定されなければなりません。それには、自律と責任あるガバナンス体制や国際的に卓越した研究成果の創出などが要件となっています。それ以上に重要なことは、本学にしかできない教育、研究、社会との協働・共創です。これらの総合的な評価の結果が、新たな大学像を発信することであり、我が国の固定化を打破し、変革を先導することではないでしょうか。

 こうした財務マネジメントについて、これからの社会においては、固定化された従来の考え方で行っていくことはもはや不可能です。まず大学の会計(報告)システムを一般企業と同様の形に変える、少なくとも一般に理解しやすい形に変える自助努力を始めなければなりません。また、近い将来にはエンダウメント全体の将来像を考え、進捗を管理できるCFO(Chief Financial Officer)を統括者とする専門部署が必須です。今年度は、アカウンティングからファイナンスへの変革の第一歩として、財務部の中に新たに資金調達と運用を役務とする課を新設いたします。

[広報局と大学経営推進局の設置]

 本学は、開学時、「新構想大学」として、全学的なまとまりを確保する仕組みを設けました。しかし、どのような組織も、大きなものであればあるほど、官僚制化していきます。残念ながら、本学でも、一般の行政組織と同様、縦割りという固定化の弊害が見られます。これまで本学では、各組織から提供された情報を全方位的に発出する広報室と、広報の課題を分析し、戦略を策定すべき広報戦略室が併存し、かつ学内で様々な組織が相互の連携なく広報活動をしていました。これからの大学は、真の経営体として、様々なステークホルダーとのエンゲージメントを通じて、信頼関係を構築することが求められています。そこで、どのようなステークホルダーにどのような情報を発信するのか、一貫した戦略の下に一元的な広報活動を行うため、本年4月から広報局を設置します。広報局は、優秀な学生の獲得、共同研究や寄附の獲得、愛校心の醸成などターゲットに応じた広報活動を行うとともに、学内ステークホルダーである教職員や学生への情報発信にも努めてもらいます。著名な卒業生・修了生に本学の広報・宣伝にご助力いただくことも検討します。「局」は、多くの場合に組織ではない会議体である「室」と、文部科学省の局との業務上の繋がりが密接な「部・課」との間に位置づけられる組織体です。ちなみに、局と同じ位置づけで先行しているのがアスレチックデパートメント(AD)です。大学のみならず初等中等学校も含めて、学校におけるスポーツの在り方改革に真摯に取り組んでいます。スポーツ庁が関わるINNOVATION LEAGUE 2021では、パイオニア賞を受賞しています。

 大学には、教育、研究、財務、人事などに関する多数のデータがありますが、組織間のデータが共通の財産として利用されていません。学内にある多数のデータを横断して分析し、学内の意思決定につなげていく必要があります。そのために重要なのがIR(Institutional Research)です。今後、教学・研究・財務・広報・マーケティングなどの向上を支援する統合IR機構(仮称)を発足させようと考えています。それに先立って、本年4月から、IRデータを活用した経営分析によって中長期的な経営戦略を策定するため、学長直轄の教職協働型の組織として大学経営推進局を設置します。これにより、エビデンスベースの大学経営を推進していきます。この局は、2015年に開設した大学戦略準備室、そのあとを継いだ大学戦略室を経て、2018年に改組した大学経営改革室と準備を続けてきましたが、その集大成です。大学経営推進局にはデータアナリストを置きます。予測不能で流動的な未来、来るべき高等教育機関のパラダイムシフトに本学が備えるための、また固定化された社会の変革を牽引するためのブレーンとして期待しています。

創基150年・開学50周年から次の50年に向けて

 本学は、国、すなわち時の明治政府が最初につくった官立(国立)の高等教育機関である「師範学校」の歴史を受け継いでおり、今年は創基150年になります。東京高等師範学校、東京文理科大学、東京教育大学を経て、本学は1973年に開学しました。この150年の間、本学は常に、新しい時代を先導する役割を担ってきました。

 時代は常に変わり続けていきます。たとえば、営利企業の在り方です。企業が将来にわたって成長を目指す際に、業態がESG(Environment, Social, Governance)の観点を配慮していない場合には、投資家は、企業価値を極めて低く評価するようになりました。企業がどんなに利益を上げていても、社会的な役割を果せない企業は長期的に存続することはできないという考え方が定着してきているのです。今日の企業の在り方は、かつて公害などの問題が指摘されて社会的責任が問われた頃を思い出すと、隔世の感を禁じえません。本学も、そうした変化の渦中にあることを強く意識する必要があります。

 日々の変化は苛烈です。たとえば、ロシア軍のウクライナ侵攻が起こりました。力による現状変更は、国際法に明白に違反し、国際社会の平和と安全を脅かすものであって、決して許されるものではありません。まさに、自由、 民主主義、 基本的人権の尊重、 法の支配などの普遍的価値を、ボーダーを越えて再認識し、様々な課題の解決に向けて協業し、そのうえで平和と安全の確保と安定的な成長を希求することの重要性が身に沁みています。では、本学はどうしたらよいのでしょうか。

 本学は、中期目標の前文で、「社会を変革させていくエンジンとして、学問の自由を共有できるパートナーとともに新たな学問分野の創成とトランスボーダー教育モデルを確立し、我が国のみならず世界に対するソーシャルインパクトを生み出す。こうした社会的役割を通して、アカデミアとして未来社会の基盤となる"GLOBAL TRUST"の創出を目指す」と宣言しています。本学の研究・教育活動は、社会を変革するエンジンとして、世界に社会的なインパクトを生み出し、固定化された社会の価値を変革し得るものだと確信しています。

 この所信で述べてきたことは、これからの本学の歩いて向かう方向についてであって、第4期中期目標期間の6年間ですべて達成されるものではないかもしれません。来年はいよいよ開学50周年を迎えます。教職員の皆さん、それに向けて本学を大いに盛り上げていきませんか。今年度は、大学にいる人々と大学に関わった、あるいは関わる人々が中核となって、次の50年に向けた準備をしっかりと整え始める時です。皆さんとともに途絶えることのない挑戦を続けていけると信じています。

創基151年筑波大学開学50周年記念事業
創基151年筑波大学開学50周年記念事業