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在学生の方へ

    

 

雇われるだけが働く道ではない。筑波大学は研究成果や持ち前の技術を活かしたベンチャーが盛んだ。起業の道へ進んだ教授、卒業生が語るベンチャーの魅力とは。

 
(朝倉健、高野友理香、東宏憲)
   

ベンチャービジネスとは

 

ベンチャービジネスとは発想力や技術力をもとに、新しい製品や技術、サービスなどを提供する中小企業のことをいう。

 

大学発ベンチャーもその一つの形態だ。大学から研究成果の提供や資金の支援を受けたり、共同研究を通して製品を開発するなど、大学と関わりつつ事業を展開する。研究施設の利用や大学公認ベンチャーとしてPRできるなど、大学発ベンチャーならではの利点もある。

 

経済産業省09年3月の調査では、大学発ベンチャーは1809社活動している。筑波大学発ベンチャーは76社あり、全国で2位の多さだ。過去3年間設立数もトップ3に入っている。設立されたベンチャーの8割近くが、バイオテクノロジーやソフトウェア分野の開発に携わっている。

順位 大学 企業数
1位 東京大学 125
2位 筑波大学 76
3位 大阪大学 75
4位 早稲田大学 74
5位 京都大学 64
 

08 年度各大学発ベンチャーの活動数‐252 大学中上位5 大学(経済産業省09 年3月調べ)

   

筑波大学発ベンチャー活動数の推移と08年度事業分野の内訳

 

※ 1社で複数分野に関連する企業があるため、合計が100%を上回る。

 

筑波大学発ベンチャー活動数の推移:筑波大学産学リエゾン共同研究センター09 年3月調べ
 08 年度事業分野の内訳:経済産業省09 年3月調べ

   

研究から「ものづくり」へ

「HAL」福祉用と山海教授(中央)
 

CYBERDYNE株式会社は筑波大学発ベンチャーの一つだ。ロボットスーツ「HAL」の開発者、山海嘉之教授(システム情報工学研究科)が04年に創業し、CEO(最高経営責任者)を務める。「HAL」などの医療福祉機器・システムの研究開発や製造、レンタル、保守管理を行っている。

 

「起業の道を選んだのは、より早く、より安くHALを必要としている人に届けられるからだ」と山海教授は話す。大学を通じての販売は、手続きが複雑で時間もかかる。企業に販売を委託すると手数料がかかり、販売価格が高くなってしまう。

 

大学の研究では経験できないことに挑戦できたと山海教授は言う。「HAL」を製品化するには、市場で通用する規格に合わせて、仕様を変える必要があった。初めて工業製品を造る「ものづくり」の経験をしたという。

 

ビジネスプランの研究や、会社としての組織づくりにも努めた。「開発したテクノロジーを、社会に根付くように育てなくてはならない。そのためには科学技術の研究だけでは足りない」と山海教授は話す。

 

ベンチャーで培った経験は、教育現場でも活かされている。「ものづくり」の観点で教育をするようになってから、医療機器の品質保証規格(ISO13485)内部監査員の資格を習得した教え子もいる。「工業の発展を国際的にリードする人材を育成していきたい」と山海教授は語る。

 

明治維新や戦後の復興など新しい時代を切り開くのは、いつも若いチャレンジャーだと山海教授は言う。「今の世の中は不安定と感じるかもしれないが、チャレンジする気持ちを常に持ってほしい」

   

コラム| ロボットスーツ「HAL」

 

「HAL」とはHybrid Assistive Limbの略で、体に装着することで身体機能を補助することができる「ロボットスーツ」だ。人が体を動かそうとした時に発する微弱な電位変化をセンサーで読み取ることによって、装着者の筋肉の動きと一体的に関節を動かし、動作を助ける。

 

現在「HAL」は福祉目的で利用され、身体機能に障害がある人の自立動作支援に活かされている。今後も介護、工場での重作業、災害現場でのレスキュー活動など、幅広い分野への適用が期待される。

   

自分の「やりたい」を形に

起業の経緯を話す大野代表取締役
 

大学発ベンチャー以外にも起業の選択肢はある。株式会社シンプルウェイは代表取締役を務める大野裕介さん(工学基礎学類04年卒)が07年に起業した会社だ。大野さんは起業するまでつくば市のベンチャーに勤務しており、起業に必要なウェブ関連の技術や会社運営の知識を得られたという。

 

シンプルウェイの経営理念は、インターネットを通じた「つくば」への貢献だ。「つくば市の魅力を全国に発信したい」と大野さんは話す。地元企業を対象に、ウェブサイト制作の支援や顧客管理、メールマガジン配信などのウェブシステムを開発・提供している。運営しているブログレンタルサービス(つくばちゃんねるブログ)は筑波大生の利用者も多いという。

 

「つくば市の情報が詰まったブログサイトを開設したくて起業した。新たな事業で成功するには早期参入がカギになる」と大野さんは言う。従業員が企画を実行するには、上司の許可や会議での承認が必要なことが多い。時間と手間がかかることに加え、実現がかなわないこともある。その点、自ら起業すれば企画をより早く確実に実行できる。

 

起業には人とのつながりもアドバンテージとなる。起業前から縁のある取引先に仕事を紹介してもらったり、勤めていた会社のアルバイトをシンプルウェイの社員に雇うことができた。

 

会社の運営を安定させるためには、小さな仕事にも懸命に取り組むことが必要だと大野さんは言う。「1億円の仕事を1件引き受けると失敗したときのリスクが大きい。1万円の仕事を1万件請け負った方が経営はずっと安定する」 何かに専念した経験も今の仕事に役立っている。大学時代、大野さんはアイススケート部スピード部門に所属し、スピードスケートに打ち込んだ。体力はもちろん、チームをまとめる力も身に付けられたという。「大学生活は何かに熱中できるいい機会だ。どんなことでもいいから打ち込んでほしい」

   

リエゾンセンターの支援

 

筑波大学産学リエゾン共同研究センター(ILC)は、大学の研究成果を利用して産業発展に貢献することを目的とした施設だ。大学発ベンチャーの起業や活動の支援、一般企業と大学の共同研究の促進など、大学と社会とのパイプ役を担っている。

 

毎年2月にILCでは、教員や学生による筑波大発ベンチャーのプロジェクト案を募集している。プロジェクトに採択されると原則3年間、ILC内の部屋に入居できるほか、約250万円の研究費支援を受けられる。現在活動しているベンチャーも、選考を通れば原則3年部屋を利用できる。

 

ILCではベンチャーの問題解決に役立つように、他のベンチャー経営者やベンチャーキャピタル(注1)などの支援者との引き合わせを行なう。ベンチャーに商品宣伝の場を提供するために、産業交流展2009(注2)などの商品展示会の紹介もする。

 

一方で経営に必要な情報の提供も行う。ベンチャー育成セミナーや知的財産権についての勉強会、支援者との交流会を年に数回開いている。筑波大学関係者以外も無料で参加可能だ。

   

筑波大学発ベンチャーの起業まで

①アイデアの相談
立案したベンチャーの事業案を、ILC に相談する。
②市場調査
3 カ月ほど、アイデアの新しさや将来性を市場で検証し、結果を書類にまとめる。
③周囲の説得
資金などが必要なため、親などの周囲の人から起業の同意を得る。
④資金準備
起業するために必要な資金を準備する。
⑤事業計画の作成
事業内容、経営方針、収益の予測などを考え、事業計画を立てる。計画案は応募した後、ILC で選考にかけられる。
⑥起業準備
選考を通過すると、原則3年間ILC の支援を受けることができる。その間に研究内容の製品化など、起業の準備をする。
⑦起業
 

※ 次の段階に進むには、その都度ILC(筑波大学産学リエゾン共同研究センター)の許可が必要。

   

立ちはだかる問題

 

ベンチャーにとって人材不足は大きな問題だ。08年に筑波大学発ベンチャーにアンケートを取った結果、回答のあった21社中11社が「人材不足に困っている」と回答した。

 

新しいアイデアが続かない問題もある。「ベンチャーは常に新しいアイデアを提案することが求められるが、アイデアの質を保ち続けるのは簡単ではない」とILCでベンチャー支援をしているビジネス・インキュベーション・マネージャーの池田勝幸さんは語る。「ILCでは事業計画を立てる支援も行う。問題に対応するには、最初の事業計画をどれだけ詰められたかが大事」

   

自分を雇う道

 

起業しようと思っている人だけでなく、多くの学生にベンチャーの視点を持ってほしいとILCユニット長を務める上原健一教授は言う。「どこかの組織に属して生きていくだけが道ではない。自分で自分を雇う道もあることを知ってほしい」

 

注1 主に成長率の高い未上場企業に対して投資を行う投資会社。投資後は経営の補助を行い、事業の株式上場まで支援する。

 

注2 09年11月に東京ビッグサイトで開かれた中小企業の交流会。主催は東京都や東京商工会議所などからなる産業交流展2009実行委員会。参加企業の技術や製品を展示し、販路開拓、企業間連携の実現、情報収集・交換などのビジネスチャンスを提供することを目的としている。

 

『CYBERDYNE』、『ROBOT SUIT』(ロボットスーツ)、『ROBOT SUIT HAL』( ロボットスーツHAL)、『Hybrid Assistive Limb』は、CYBERDYNE( 株) の登録商標です。

 

『HAL』は、CYBERDYNE( 株) の商標です。

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