生物・環境

ゲノム刷り込みが正しく調節される仕組みを解明〜発現調節DNA配列の方向にも重要な意味がある〜

研究イメージ画像 (Image by nobeastsofierce/Shutterstock)

 私たちヒトを含む哺乳動物は、有性生殖によってゲノム(全遺伝情報)を両親から1セットずつ、計2セット受け継ぎます。そして、父母それぞれに由来する遺伝子のほとんどは、子において等しく働き(発現し)ます。ところがごく一部の遺伝子は、父親由来、母親由来のどちらか決まった一方しか発現しません。この現象を「ゲノム刷り込み(ゲノムインプリンティング)」と呼びます。ゲノム刷り込みは哺乳動物の正常な発生・成長に重要で、破綻するとヒトの疾患の原因にもなります。


 本研究グループは、ゲノム刷り込みを受けるH19遺伝子が、父親由来では抑制され、母親由来のみで正しく発現するメカニズムを解析しました。具体的には、ゲノム編集技術を使い、H19遺伝子の発現調節領域(H19-ICR)のDNA配列を反転させたマウスを作製し、その働きを調べました。


 その結果、父親由来では、H19-ICRのDNA配列が正しい方向で配置されていることで、H19遺伝子の転写開始に必要なDNA領域が高度にメチル化され、これがH19遺伝子の完全な発現抑制に必要であることが分かりました。一方、母親由来では、H19-ICR配列の方向はメチル化には影響しないが、正しい方向に配置されていないと、H19遺伝子の発現が低下することが明らかになりました。


 本成果は、H19-ICR配列が父親由来と母親由来で異なる作用を持つことで、H19遺伝子の発現量が調節されていることを示しています。シルバーラッセル症候群やベックウィズ−ヴィーデマン症候群など同遺伝子座の制御の破綻が原因とされる疾患の理解に貢献できることが期待されます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学生命環境系
松﨑 仁美 助教


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