自閉症責任遺伝子の変異が小胞体ストレスを誘導するメカニズムを発見
自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションが困難になる発達障害(脳機能障害)の一つです。すでに、ASD発症リスクの増加につながる責任遺伝子の変異が数多く報告されていますが、これらの変異がASDをもたらすメカニズムは未解明です。
これまでに本研究グループは、ASD責任遺伝子Usp15に異常が生じると、スプライシング反応(転写後修飾)が破綻し、複数の異常な転写産物が生じることを発見しています。今回、Usp15のノックアウト(KO)マウス脳から見いだした、別のASD責任遺伝子Hevinに着目してスプライシング異常を解析し、HevinのC末端領域に位置するEF-handモチーフが欠損した変異体を2つ同定しました。これらの機能解析から、Hevin変異体は小胞体に蓄積し、小胞体ストレスを誘導することが分かりました。次に、ASD研究の遺伝子発現解析のデータベースで、EF-handモチーフ内に変異を持つHevinを探索したところ、Hevin W647R変異体を見つけ、これも小胞体ストレスを誘導することを突き止めました。また、タンパク質の構造変化を追跡する分子動力学シミュレーションにより、変異部位周辺で、複数の疎水性アミノ酸で構成される構造(疎水コア)が崩壊していることを明らかにしました。以上の結果から、Hevin W647R変異体は、疎水コアの崩壊により構造的な不安定性が増し、小胞体からの分泌に異常をきたすことが示唆されました。
本研究成果は、細胞内の膜輸送系の異常に起因する小胞体ストレス誘導がASD症状悪化につながる可能性を示しており、小胞体ストレス緩和や特定構造を標的とした薬物によるASD予防・治療への応用が期待されます。
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プレスリリース研究代表者
筑波大学生命環境系鶴田 文憲 助教
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