テクノロジー・材料

TSUKUBA FRONTIER #052:倒壊や崩落のプロセスから建築物を捉える

磯部大吾郎教授の写真

システム情報系
磯部 大吾郎(いそべ だいごろう)教授

PROFILE

1994年東京大学大学院修了、博士(工学)。
東京大学助手、筑波大学講師、准教授を経て現職。
建物の衝撃・崩壊解析、非構造部材の挙動解析手法などの開発に取り組み、市村学術賞貢献賞・川井メダルなどを受賞。 計算力学関連の国際会議を議長として多数運営、学会主導型産官学連携博士課程学生増進プログラムを主導。 (一社)日本計算工学会第14代会長。
現在、茨城県教育委員会委員を兼務。著書に「はり要素で解く構造動力学」など。

創造のためのシミュレーション

老朽化した高層ビルなどの発破解体計画や、地震や災害に強い建築物の構造を考えるには、
建物が倒壊する時のメカニズムを理解することが重要です。
そのために独自の計算手法を開発し、多くのシミュレーション研究を行ってきました。
その応用範囲は、ロボット機構の制御といった、意外な分野へも柔軟に広がっています。

倒壊シミュレーションを現実の建物で

著書写真

 建築物は、さまざまな素材や形状の部材が複雑に組み合わされ、容易に壊れないように工夫を凝らした設計で成り立っています。ですから、それが倒壊するとしたら、そのプロセスは、構造や加わる力の大きさや向きなどの条件によって異なります。この様子をシミュレーションする計算手法の一つが有限要素法です。

 構造物を小さな要素に分割し、強度や熱、振動などの性質をそれぞれ数値化して計算することで全体の挙動を解析する手法で、建築物だけでなく、自動車や航空機、電子機器の設計など幅広く使われていますが、さらに、部材ごとの特徴などを考慮した独自の改良に取り組んでいます。

 この手法を実在する建物に最初に適用してみたのが、2001年にニューヨークで起こった同時多発テロによる世界貿易センタービルの衝撃的な倒壊でした。なぜいとも簡単に地上まで崩れ落ちてしまったのか、シミュレーションをしてみると、高層ビルならではの構造上の課題などが見えてきました。

防災・減災に向けて

 災害時の避難所になる体育館。しかし屋根の構造によっては、揺れによって天井が落下する危険があります。耐震化を進めるために、天井が落下するメカニズムを解析してみると、三角屋根の角部分のように力が集中する箇所は壊れやすいことがわかりました。全体を支える柱が少ないのに頑丈な構造を保つには、天井や屋根がしっかりしていることが何よりも重要です。そのため、細かい部品などもすべてモデル化して解析します

 また、建物自体が耐震構造であっても、室内も安全だとは限りません。そこで、地震の際に住宅内で家具がどのように揺れたり倒れたりするのかも調べています。モーションキャプチャの技術を使って実験的に揺らした時の様子と比べてみると、シミュレーション結果とよく一致し、突っ張り棒などの簡易的な耐震対策の限界も示されました。VR(仮想現実)空間でその状況を実際に体感できるシステムも開発しており、より具体的に家具の配置や選び方を考えることができます。

シミュレーションの先に

 建物が倒壊することなど、できれば考えたくはありません。もちろん、タワーマンションなども含めて日本の建物がそんなに簡単に壊れることはないでしょう。とはいえ、建物が地震や津波によって壊れたり流されたりする現象をきちんと追うことが、よりよい設計や、避難経路の準備につながります。また今後、老朽化や再開発に伴って解体を迫られる建築物も増えてきます。解体後のがれきの状態なども含め、より安全で効率的な解体方法の提案にも、シミュレーションは力を発揮します。

 一方、このようなシミュレーションの手法はテロリストなどに悪用される可能性もあることから、せっかくの研究成果をどのように公開していくか、慎重に考えなくてはなりません。優れた手法だからこその悩ましさです。

どんな研究も自分のためになる

 学生時代に志したのはロボット研究。けれども希望する研究室では学生を受け入れておらず、ロボット研究を横目に見ながら計算力学の分野に足を踏み入れることになりました。そこで出会ったのが、当時、日本でも知られるようになってきた有限要素法でした。

 近年、この手法をロボット研究にも活用する機会が増えてきました。ロボットは動きが複雑になると関節の数が増え、全体としての動きを最適化するには、それぞれの関節を精密に制御するモデルが必要です。しかし従来のロボット工学では、モーターの回転力で考えるため、計算がとても煩雑になっていました。ところがここに有限要素法を適用すると、材料や構造にかかる力に基づくので、スッキリとしたモデルになります。異分野ならではの発想が功を奏したと同時に、もともとやりたかった分野との協働にもつながりました。

 そんな経験から、たとえ自分の望まない研究をすることになったとしても、将来はどう転がるかわからない、結果的にはきっと自分のためになる、と学生にも伝えています。ロボット研究は筑波大の得意分野の一つでもあり、研究の幅はますます広がりそうです。

筑波大学システム情報系 計算・構造工学研究室

磯部教授写真

 計算力学や構造力学的見地から、建築構造、宇宙構造、ロボット機構などの様々な動的・動力学的問題に関する研究を行う。研究テーマは高層建築物の進行性崩壊解析、広域津波流出解析のための流体-構造連成解析手法の開発、大規模構造物の発破解体計画手法の開発、地震動下の非構造部材挙動解析・VR可視化手法の開発、宇宙用展開アンテナの熱変形抑制手法の開発、ロボット機構のトルクキャンセリングシステムの開発など、多岐に渡る。

磯部ラボウェブサイト

(文責:広報局 サイエンスコミュニケーター)

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