生物・環境

菅平高原実験所構内でモデル生物に近縁な新種の線虫を発見

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 筑波大学の菅平高原実験所構内で採集した土壌性ハナバチから新種の線虫を発見、記載しました。発生生物学、進化生物学などに使われるモデル線虫種に近縁で、ハナバチを特異的に利用し低酸素適応するなど特徴的な生理・生態的形質を持つことから、研究材料としての利用が期待されます。

 無脊椎動物の1グループである線虫類は種多様性が非常に高く、100万種が知られる昆虫と同等かそれ以上の種が存在すると考えられています。その中には、多くの有害種(寄生虫、農林業害虫)や有用種(生物防除資材、モデル生物)が含まれます。しかし、現状で命名されているのは3万種足らずであり、多様性の解明にはほど遠い状況にあります。このため、さまざまな環境から継続的な採集を続けていくことにより、新たな有用種が検出される可能性は非常に高いと言えます。

 本研究では、標高が高く寒冷地にある筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所(長野県上田市)で線虫多様性調査を行い、土壌性の真社会性ハナバチであるアカガネコハナバチから継続的に検出される線虫種を確認しました。

 この線虫は、ゲノム進化や自己認識、環境に応じて体の構造を変える「発生学的可塑性」現象などの研究にモデル生物として用いられている雑食(細菌食、捕食)性線虫、Pristionchus 属に属する新種であると考えられました。このため、詳しい形態観察、分子系統解析を行い、Pristionchus seladoniae として記載しました。

 P. seladoniae は、他のPristionchus 属線虫で一般的に使われる大腸菌培地での増殖が安定しない、培養条件下では可塑性が発現しないという生理的特徴、土壌性ハナバチから継続的に検出されるという生態的特徴、clumping という低酸素適応種にみられる培地上での集合行動など、一般的な Pristionchus 属と異なる特徴を持っており、モデル種との比較研究材料(サテライトモデル)として、ゲノム生物学、生理学、環境適応などの分野で利用されることが期待されます。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学生命環境系/山岳科学センター菅平高原実験所

出川 洋介 准教授

森林総合研究所関西支所

神崎 菜摘 主任研究員

掲載論文

【題名】
Pristionchus seladoniae n. sp. (Diplogastridae) isolated from a eusocial soil-dwelling bee, Halictus (Seladonia) aerarius, in Nagano, Japan.
(長野県において真社会性・土壌性ハナバチから検出された新種線虫、Pristionchus seladoniae)
【掲載誌】
Nematology
【DOI】
10.1163/15685411-bja10326

関連リンク

  1. 生命環境系
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