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大学案内

学長室
2018年度学長所信表明 真の学歴を目指して

学長 永田恭介

学長 永田恭介

今年度は第3期中期目標期間の3年目にあたります。国立大学法人評価委員会による「平成28年度に係る業務の実績に関する評価結果」に関して は、①業務運営の改善及び効率化、②財務内容の改善、③自己点検・評価及び情報提供、④その他業務運営という全項目で「中期計画の達成に向けて順調に進んでいる」との評価をいただきました。ただし、これは6段階の上から3番目の評価ですので、いわば「中の上」で、まだ改善の余地はあります。

昨年度は、スーパーグローバル大学創成支援事業と研究大学強化促進事業という2つの大きな事業の中間評価の年でもあり、前者ではS評価、後者ではA評価を得ました。また、平成23年度採択の博士課程教育リーディングプログラムが事後評価を受け、本学のヒューマンバイオロジー学位プログラムがS評価を受けました。これらは本学の強みである「国際性」と「学際性」がいかんなく発揮された結果です。データの収集や調書の作成などにご苦労いただいた教職員の皆さんの情熱と不断 の努力を讃えるとともに、あらためましてお礼を申し上げます。

こうした取り組みとその成果は今の国立大学にとって死活問題と言っても過言ではありません。少子化により我が国の高等教育の規模は縮小しています。加えて、社会保障費の膨張と財政赤字に苦しむ政府は文教関係予算と科学技術振興費の削減を余儀なくされ、財務省は「2031年度までに国立大学の運営費交付金依存度と自己収入の割合を同水準にする」ことを求めています。現在の国立大学は法人単位で経営がなされるため、個々の大学が経営努力を行うことによってこうした逆境に立ち向かっていくしかありません。教育のグローバル化は少子化に対抗する教学努力の一つですし、研究力を強化し外部資金を増やすことは自己収入の割合を引き上げる経営努力の一つです。しかし、経営努力は大学にとって手段であって目的ではありません。グローバル化や外部資金獲得の真の意味を理解し、常に大学本来の目的、すなわち本学が志す研究力強化、教育力強化、大学改革などを実現する手段として、経営や運営の改善に努めることが肝要です。

新しい学年暦を迎えるにあたり、学歴という視点から、本学について考えてみます。

筑波大学歴とは

学歴とは学業の経歴であり、学修者が何を学んで何を身に付けたかの歴史です。しかし、学歴には、それをどこで学んだかという側面もあり、この側面を筑波大学での学業の経歴、いわば筑波大学歴と呼んでみると、様々な視点が見えてきます。学修者にとっては、大学では何を学ぶのか、筑波大学では何を学ぶのか、といった観点が必要です。学びの機会を提供する側には、筑波大学とは、国立大学とは、大学とは、などのそれぞれの階層から本学を認識する必要があります。つまり、学歴とは学修者の学業歴とそれを提供する大学歴から成り立っており、「何を学んだか」と「どこで学んだか」の両方を学修者が明確に理解したときに初めて「真の学歴」となると考えられます。

教育における憲法とも言うべき教育基本法第7条では、「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」と述べています。さらに、学校教育法第83条では「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」と明記しています。これらは我が国に おける大学の役割を明確に定義しています。

国立大学は、1949年の国立学校設置法により、戦前の帝国大学を含む19の大学、26の高等学校、62の専門学校、83の師範学校などが統合され、70の新制大学として設置されました。国立大学設置における最も重要な方針は、「教育の機会均等を実現するため、一府県一大学を設置する」ということでした。時代は移っても、国立大学は「地域と国の発展を支え」、加えて「世界をリード」することを自らの使命としています。このような国立大学の役割を認識することは、今後の我が国の高等 教育全体を考える上で非常に重要なことです。少子化は、やがて地域における大学の連携・統合、閉鎖を加速していきます。その際に、各国立大学は各地域において学ぶ意欲を持った者に一揃いの高等教育を供給する責務があります。それは、各国立大学が自身の本来的な役割を認識し、教学と経営において覚悟を決めなければなりません。目指す教育研究とそれに合致した学生の選択に直結することです。

このような大学、国立大学の役割を理解し、また本学のレガシーを認識した上で、我々は筑波大学の役割を考え、覚悟に基づいた将来像を描かなければなりません。我が国で、国が創設した最も古い高等教育機関を創基に持ち、時代の中で変革を繰り返し、45年前に日本で最も新しい総合大学として生まれ変わった本学は、他には類をみない学問分野を持つ研究型大学として活動を続けてきました。数百文字で書かれた建学の理念は、今でも全く古びた様子はありません。過去の所信で、本学の強みは「学際性」と「国際性」であると述べました。学際性については、新たな学問分野の創成であると定義しました。新制大学とは異なる理念で新構想大学として生まれた本学は、一府県一大学設置の原則に縛られません。本学にとっての地域は、地理的にはつくばであり茨城ですが、その枠を越えた世界であると考えています。これらは、基礎と応用の諸学問を尊重し、開かれた大学 として、不断の改革に挑戦をしてきた本学の積み重ねられた強みです。社会への貢献、すなわち地域への貢献も国への貢献も、高い水準の研究とその成果、またそれらに支えられた教育を通じて涵養される人材によって展開されます。これを積み重ねる歴史が、筑波大学歴であり、真の学歴を構成する重要な要素です。

筑波大学での学修歴の充実に向けて

オリジナリティのある優れた研究こそが教育の基盤です。その上で本学の特徴が反映された教育を全学生に提供できれば、本学で学んだ学生にとって他の大学とは異なる価値のあるブランドとなる学歴になるはずです。現在、本学では教育に関して2つの大きな改革を進めようとしています。すなわち、学群の入試改革と大学院課程の学位プログラム化です。

学群の入試改革は、学士課程の教育改革に直結しています。本学の学士課程における高度な専門教育は、創設以来、学類という学位プログラム化されたものです。これを高度化するための議論が必要ですが、より大切なことは時代に合ったリベラルアーツとトランスファラブルスキル(移転可能なスキル)に関する教育システムとコンテンツの改革です。総合選抜やSFタームなどに関する議論の原点がここにあります。その際、liberalarts(リベラルアーツ)とgeneraleducation(一般教養)の違いについて理解しておく必要があります。中世ヨーロッパの大学では、知識は、神学、法学、医学あるいは近代以降では工学、農学、経営学、教育などの特定の職業に就くための技芸に縛られない自由な学芸(リベラルアーツ)を構成していました。すなわち文法・修辞・論理の3科と算術・幾何・天文・音楽の4科が自由7科と呼ばれていました。これらは、専門職のために学ぶ者も修める自然と人と社会の本質を極める専門分野です。人は専門家である前にまず優れた一個の人間であるべきだという理念が背景にあります。本学では、リベラルアーツは自由7科のみならず各種の専門分野の集合であり、それらを広く学ぶことであるとの考え方を取りたいと考えています。リベラルアーツ教育は学年次に捉われませんが、初年時(1-2年次)におけるリベラルアーツ教育では、学生側の知識量が少ないことを考慮して教授方法を工夫する必要があります。一方、general educationは学問を修めるために必要な基本的な考え方や技術を修めるためのものであり、自らの専門的な学芸を深化あるいは応用的に発展させ、他の専門分野の理解とそれらと協業することを助ける能力を磨くために必要な教育です。日本ではいずれも教養教育と訳されるが故にやや誤解を招いている部分があります。なお、generaleducationは「トランスファラブルスキル」の基盤であると言い換えることもできます。学生が卒業後に実社会という異なる環境で、あるいは国境や分野の壁を越えて活躍するには、トランスファラブルスキルが不可欠です。さらに、研究の世界でも分野を越えるトランスファラブルスキルはイノベーションやブレークスルーの源泉となります。すなわちリベラルアーツとトランスファラブルスキルに関する教育は、学校教育法が述べる「広く知識を授ける」、「応用的能力を展開させる」ことに繋がっています。

大学院課程の学位プログラム化は、専門性の深化と本学の学際性を生かすことのできる専門力の幅広い活用に向けての方策です。基本的には、大学院課程の教育は研究と不可分であり、それによって知の更新を行うという考え方(いわゆる「フンボルト理念」)に沿った形です。学校教育法においても「教授研究」が一体的に書かれています。教員一人ひとりが「巨人の肩」の上に立ってオリジナリティの高い優れた研究を行い、ラボやゼミを常に知を更新し続ける現場として捉え、学生と共創することが重要です。加えて、専門家として知的に優秀であることは本学が授与する学位の必要条件ですが、十分条件ではないことを確認したいと考えます。十分条件を満たす学生を育てるためには、「深く専門の学芸を教授研究」するだけでは不十分です。優れた研究に裏打ちされた専門力に加えて、今後の時代に必要な大学院レベルでのリベラルアーツに基づいた俯瞰力を備えていなければなりません。例えば、①国際的に協働できるコミュニケーション能力、②多様性を理解し、異なる人と共生する力、③アントレプレナーシップ、④サイエンス(科学)とトランスサイエンス(科学だけでは答えが出ない社会的価値判断)のリテラシーなど、全学的な議論に期待します。このことは、卓越大学院事業への応募に際しては十分に考慮する必要があります。さらに、単に「知的」に優秀な専門家や研究者を育てるのではなく、専門家である前に「道徳的」にも優れた人間であるような人材を育てることを目指さなければなりません。アカデミアの世界で頻発する研究不正、ハラスメント、利益相反などの事例を見聞きするにつけ、そう痛烈に感じます。

こうした本学の考え方に沿って学ぶ学生が在学中に身に付けた能力と価値を見える化することで、本学における学修歴すなわち筑波大学学修歴が顕在化します。その前提としては一人ひとりの学生が身に付けたことを見届ける仕組み(達成度評価など)も必要となります。教育の実質化と質の向上を目指す不断の改革が必要です。

筑波大学歴の充実に向けて

筑波大学での学修歴を支える筑波大学らしさの基盤は、研究であり、その成果に基づいた様々な活動です。

過去の所信において、本学の強みである学際性に鑑みて、本学を新しい学問分野や領域を積極的に生む場と再定義しました。また、基礎研究、応用研究、開発研究それぞれの重要性や、ディシプリン型研究と分野横断型研究の有用性についての認識を示しました。そうした研究の発展のためには教員個々の個性と能力が発揮できる環境を整える必要があります。例えば、本学は、建学時から旧来の講座制を廃して研究におけるグループ制を守ってきました。それにより、研究の自由と多様性を保ってきましたが、一方で時として大型研究や庇護された環境でこそ可能なセレンディピティに満ちた研究の遂行がスムーズに行かないことも経験してきました。昨年、本学計算科学研究センターと東京大学が共同で調達して運用するスーパーコンピュータOakforest-PACSがIO-500という大規模数値シミュレーションだけでなく、ビッグデータ・AI処理に極めて重要なストレージ性能ランキングで世界1位に輝きました。参加した研究者の方々の能力に負うところですが、センターとして集約的に研究に立ち向かえた結果でもあります。グループ制を保ちながら、開花を待つ個人研究を支えることができるような改善が必要です。本学の一部の組織では、科目グループ制とも呼べるような個人研究には介入しないが、教育についてはグループをまとめたグループ群が責任を持つような体制も取られています。教育内容の精査により研究時間が増え、交代で海外での共同研究への参加などが可能になります。構造的な改善も含めて、こうした工夫について考察していかなければなりません。

研究成果の見える化については、昨年度は定量的組織評価を実施しました。当然ながら、学問における文化の異なる組織を比較するためのものではなく、各組織の研究における質の向上に資するためのものです。これを経年的に行うことで、自組織の改善、あるいは教員採用などの方策に役立てていただきたいと考えています。加えて、自組織と他の高等教育機関の同類の組織(ベンチマーク)を経年的に比較できれば、自組織の独自性の強化、学問分野における傾向と将来像の策定などにも資すると考えています。

外部(競争的)資金獲得の増加は、運営費交付金の基幹経費が削減される中では最も重要なことの一つです。本学の弱点の一つは博士研究員数の少なさです。外部資金獲得と博士研究員数は正の相関があり、いずれかを上方に向けることでポジティブスパイラルが回り始めます。個々の教員、研究グループの一層の努力が必要です。系・センターなどで、日本学術振興会(JSPS)の科研費の申請率向上に向けた取り組みがなされていることには感謝いたします。ファンドは様々なところにありますが、本学ではそれらへの挑戦が必ずしも多くはありません。URAを活用し、外部資金課や財務企画課あるいは国際産学連携本部などと前向きな議論をお願いいたします。

産官学の連携・協働による研究推進は、それぞれの研究組織の持つメリットを生かし、不得意部分を相補する観点からも大いに推奨しているところです。国際産学連携本部の活動も軌道に乗り始め、設置以前に比べて、個々の資金が大型化し、3倍近い外部資金導入があります。海外企業からの資金獲得については、国内大学では第2位の状況まできています。そうした資金面からだけではなく、国際産学連携本部に設置された開発研究センターも充実してきました。企業の研究者を教授とし、センター長に据えるセンターも創設されており、大学院生に企業的な研究を体験させる場ともなりますので、今後の拡大に期待しています。

海外との協働研究についても加速し始めています。CiC(キャンパスインキャンパス)による協働研究に関しては、現在、デジタルサイエンス分野において米国の複数の高等教育機関との協働のための準備が進んでいます。ハードやアルゴリズム開発、サイバーセキュリティを含むITの基盤的な研究に加えて、AIの進展を活用しようと目論む多様な分野が参画を考えています。これは、世界展開力のプログラムとして是非実現させたいと考えています。リサーチユニット招致プログラムはオリジナリティの高い海外との協働研究を展開しています。昨年度始まったユニットには、スポーツ科学や人間科学に関する他の大学にはあまり類をみない領域のものがあります。様々な分野での海外との共同研究の推進が期待されます。

昨年度、本学の人文社会科学分野がビジネス科学分野に包含されるというフェイクニュースが本学と社会を騒がせました。そのような誤解の一つの遠因は、巷で喧伝される人文社会への風当たりではないでしょうか。本学では研究大学強化促進事業の当初5年において、他の大学が理系一辺倒である支援を人文社会系の学術センター創設にも振り当てました。この学術センターは、今年度からのこの事業の後半5年の研究にSDGsの視点を取り入れることとしています。また、上述の両分野は協業して、法学分野の学士課程、大学院課程の充実・強化を進めることができると考えています。

本学の地域は世界であると考えていると述べましたが、もちろんつくばと本学の協働は両者にとって本質的です。筑波研究学園都市が拓かれて55年となりますが、初期の頃は外形整備に、その後は各機関のアイデンティティの確立に努力が払われ、ようやくここ数年前向きな協働が見られるようになってきました。産業技術総合研究所と本学で始めた「合わせ技ファンド」は「つくば産学連携強化プロジェクト」と名前を変え、農業・食品産業技術総合研究機構と茨城県の参加を得るまでになり、これらの資金を拠出する機関間での共同研究を推進しています。他方、アリーナ構想が基本的に目指しているのは、本学の研究力(工学系、体育系、芸術系、医学系など)の結集した新たな場の創出とアリーナを中心としたつくばという街の再興です。学生、教職員の生活の場であるつくばが大学文化の薫る街となるよう皆さんの協力に期待しています。

筑波大学歴を支え、発展させるために

「2018年」は、我が国の高等教育にとって節目の年です。日本の18歳の人口はすでにピーク時の半分以下に減少していますが、大学進学率が上昇したため、大学入学者数は微増から横ばいへと推移してきました。それが2018年を境についに減少に転じます。人口減少に伴う我が国の大学の将来像については、中央教育審議会大学分科会将来構想部会で議論が続けられています。「人生100年構想会議」でも、人口減少社会における大学改革についての議論が進められています。我が国の18歳人口は、2005年には137万人でしたが、2016年には119万人まで減少しました。今後、2032年には100万人を割り、2040年には80万人台にまで減ります。質の高い学生、特に知の高みを探究しそれを継承できる人材を求める本学にとっては深刻な問題であることを強く認識する必要があります。優秀な人材を社会に送り出すためには、質の高い留学生と社会人の確保が重要であることは明らかです。留学生については、大学院生を中心に国立大学の中で最高の比率で受け入れている実績があり、さらに質・量ともに充実させていくことが期待されます。一方、学士課程の留学生についてはさらなる工夫が必要です。学生リクルート方策だけではなく、受け入れてからの教育内容の充実が必須です。社会人については、リカレントの観点から、修士課程での受け入れ増加が妥当ではないでしょうか。さらに社会人の学びを実現するための具体的な方策として、エクステンションプログラムとして必要な知識、技能、思考方法などを教授・供給するなどの工夫も有益です。この所信の最初で述べた「覚悟に基づいた将来像」の中に、本学がコミュニティ・カレッジとして振る舞う考え方はありません。一方、「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関」に関する規定は機関設置だけではなく、学科単位での設置を可能とする形に拡充されました。総合型、研究型の大学だからこそ可能なプログラムがあるのではないかと考えています。

大学の学生支援は学修歴形成にとって非常に重要です。運営費交付金の削減が続く中、学生支援についてだけは微増であっても右肩上がりを基本方針としています。授業料免除や奨学金支給に関して充実を掲げる政府の考え方に従い、今年度は学生の経済的支援の枠組みを見直しました。僅かですが、これまでになかった博士課程学生に対する支援枠も新設しました。「学業における武者修行」の考え方を基盤とした「はばたけ!筑大生」事業については、年々活動内容が多様化し、進化している様がみてとれます。竣工した大和リースコミュニティステーションは異文化体験の場として活用されており、国際性の日常化の実現に貢献しています。

在学中はもちろん卒業・修了後における支援も重要です。平成29年1月に元筑波大学長である江崎玲於奈先生を会長として発足した「筑波大学校友会」が活動を始めています。会員と筑波大学、あるいは会員同士が世代や分野を超えて交流を図り、大学の発展支援と個々の会員の方々の人生の充実に資することが期待されています。ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリア(DAC)センターでは、卒業生・修了生が社会に出てからの活躍について調査を行い、その調査結果に基づいた教育や就職支援の内容について改革を進めています。特に、アントレプレナー志向とこれを涵養する支援については、カリキュラムでの取り組み、各種のワークショップの開催などを通じて充実を図っています。ちなみに、イノベーターが集い、本学学生が全面的に協力し、J-WAVEと主催する「イノベーションワールドフェスタ」は、今年は9月に都内六本木ヒルズで開催されます。本学は、ダイバーシティ推進に真剣に取り組んでいる大学です。ジェンダーのみならず、年齢、障害、国籍などを含めたダイバーシティ推進によって構成員の多様性を高めることは、新たな才能の発掘を含めて、経営的な観点からも注視していかなければなりません。

昨年度は、学生の学業、課外活動における活躍が顕著でした。東京2020オリンピック・パラリンピック大会を間近に控え、我が国におけるスポーツ振興とスポーツの価値の再認識の動きが活性化してきています。学生のスポーツ分野での活躍も目立った年でした。学生たちの活躍を支えてくださった教職員の皆さんにあらためて感謝を申し上げます。さらに、スポーツ庁が先導する日本版NCAA創設についても、今年度にはその最初の施策が始まる予定です。求められている究極は、スポーツ団体別のマネージメント体制を参加大学が主体となる形に変革していくことです。そのため、大学は大学スポーツの本質について正確に再考し、それに従った改革を考えていかなければなりません。そのために本年度からアスレチックデパートメントを新たに立ち上げました。解決すべき課題は、例えば課外活動としての限界、スポーツの安全・安心の確保、アスリートの学業支援など、山積み状態ですが、開かれた議論で確実に前進していくことを期待しています。

本学附属病院は、病院として独自の、また総合研究型大学の部局として両面からの運営が活用できるはずです。特に経営的な観点からは、赤字から黒字経営への転換を成し遂げた点が高く評価されています。これを継続するためには、最終的には診療機能の水準を上げることに繋がる能力のある医師、医療関係者にとって魅力のある大学病院である必要があります。大学の承継教職員とは異なる考え方での雇用と支援について考えていかなければなりません。県内唯一の特定機能病院であり、高度医療の実践、医療技術の開発などの使命に加えて、つくば市、茨城県はもとより北関東や南東北の地域医療にも責務があります。昨年度、筑西市と本学で開設した寄附研究部門「茨城県西部地域医療システム学」を基盤に、今年度筑波大学附属病院と自治医科大学が合同で支援する「茨城県西部地域臨床教育センター」が開業する予定です。日本医療研究開発機構(AMED)の「橋渡し研究戦略的推進プログラム」に採択されたつくば臨床医学研究開発機構(T-CReDO)のトランスレーション機能に大きな期待を寄せています。

本学附属学校群は、あらためて総合研究型大学の附属であることを強く意識し、大学の特性を活用することが重要だと考えます。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)、スーパーグローバルハイスクール(SGH)に選ばれている学校は、その特性が認められた上で選抜されていますから、それぞれの教育方針を貫いて事業を進め、必要であれば大学との協働をさらに進めることも必要です。特別支援学校と本学工学系の協働的な取り組みによる体育館の活用なども良い例です。本学附属学校群による夏の合宿を始め、インクルーシブ教育の実現は価値ある試みです。これらに鑑みれば、本学附属学校群の3つの拠点(先導的教育拠点、教師教育拠点、国際教育拠点)構想は順調に進んでいます。さらに、不断の改革を進める大学と同様にその先の方策についても期待しています。それは、教学的な観点についてだけではなく経営的な観点についても、大学とともに望むべき将来像について考えていかなければなりません。

大学全体で、また組織ごとに各種の経営努力が行われています。今後、ますます資源制約が高まっていくなかで、資源の確保や配分について中長期と短期の両面から戦略を立て、一貫性のある経営努力を進めていく必要があります。その目的で教職協働の学内委員に財界などの外部有識者を加えた学長直属の大学経営改革室をこの4月に設置しました。この室は、これまでに大学戦略室で行ってきた検討を踏まえつつ、学群、大学院、センター、附属病院、附属学校、事務組織を含む大学全体のコストとその成果分析に基づいて、本学の強みと弱みを見定め、本学らしい教育、研究、社会貢献という本来の目的を実現するための具体的な経営改革案を学長に答申します。大学経営改革室に例示されるように、これからの大学運営にとって外部の意見をどう取り入れるかがますます重要になってきます。すでに経営協議会を通して法人経営に関する意思決定に外部有識者の意見を反映させていますが、財務省が求める自己収入の割合に少しでも近づくには、大学が閉じた存在であるという観念と決別し、自治体や産業界とのパートナーシップを強化するとともに革新的な今後のパートナーシップの在り方を模索していく必要があります。

筑波大学歴を未来へ繋ぐために

箱根駅伝に譬えるなら、今年度は第3期中期目標期間の往路最終区間にあたります。箱根駅伝でもこの区間に山上りがありますが、本学にとっても頑張りどころだと思います。大学の原点と本学の原点を見据えながら、この1年、第3期中期目標期間の山場を共に走り抜いていかなければなりません。

昨年は、我が国の産業界には、世界的な企業における不祥事などが相次いで発覚し、信頼という言葉そのものであった新幹線での重大インシデントが発生しました。我が国の大企業のほころびとも言えるこれらの事件は、見える「もの作り」から見えない「もの作り」への転換が進む中、産業構造の転換への対応の遅れが原因の一つだと考えています。大学が置かれた激動するグローバル化した社会は、「超スマート社会」を目指す社会です。世界では多種多様な問題が起こり、情報化の進んだ社会ではこれまでに経験したことがないスピードと規模で変化が起こります。大学には、こうしたことに対応し、あるいはこうしたことを牽引できる価値の創造と人材育成が求められています。しかし、大学はこうした変化とは距離を置いた、例えば異なるスピード感や規模感で進む学問もあるということも知っています。グループ化されない分野、あるいは体系化されたとしても、真に個性と個の才能に根ざす分野もあります。大学という組織の本質の一つは、これらすべてを内包できる理解力と包容力です。

上述したほころびが、一方で我が国の精神構造の変化が反映した結果ではないかと危惧してもいます。根本的に他者、異論が許容できないということが増えてはいないでしょうか。そうした不寛容さがポピュリズムと結びつくと攻撃性が増し、マスコミやSNSと繋がると増幅と過剰な批判に繋がります。不寛容の意識の根底には、怒り、憎しみ、妬み、悲しみなどがあると考えられています。我が国には、従来、世間や他人に迷惑をかけることは最大の恥であるという価値観がありました。従って、自由な振る舞いには歯止めがあったことになります。このしきい値が下がってしまったのかもしれません。これはグローバル化した社会で生きるためには必要があるかもしれません。しかし、自己中心的な考え方の対局に我が国の社会の規範はあったわけですから、従来型の日本社会の崩壊に繋がる可能性もあります。怒り、憎しみ、妬み、悲しみなどとポピュリズムは戦争の大きな原因と考えられています。経済的な安定、個人、家庭、社会、国と地域の安全保障に対する恐怖、利益と所有を求め野心や名誉に対する欲などがそうした感情の裏にあります。

未来社会を望む形にしていくknowledgeではなくwisdomのための場所こそが大学であり、そこで学び、働く者の求めるものです。筑波大学には本学らしいwisdomの追求の仕方があり、それが本学の大学歴であり、学ぶ者の学修歴であり、その総和が学修者の学歴です。本学の発信する真の学歴について皆さんと不断に考え、そのために必要なことについては果敢に実践して行きたいと考えています。

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