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千葉 ともこさん(TSUKUCOMM Vol.52)

千葉さんの写真

埋もれた感情や出来事を物語に

小説家 茨城県職員 千葉 ともこさん


-作家でもあり県庁職員でもありますねどのように両立させているのでしょうか

 両立という意識はあまりないんです。県庁に入庁する少し前から小説教室に通い始めたので、最初から両方ともあるのが普通でした。自分の中では表裏一体なんです。2020年に松本清張賞をいただいて作家デビューしましたが、県庁の仕事も、自分で選んだものでやりがいを感じていますので、どちらも頑張っていくつもりです。

 県庁での仕事は、小説と直結するわけではありませんが、世の中のことを知ったり、人と出会ったり、いろんな感情に触れる機会が多いので、そういうことを敏感に受け止めることは、物語を書く上でも大切に思っています。それに、小説で扱っている中国の歴史って、ある意味、役人の物語でもあるので、人間観察的な面でも興味深く感じています。

 作家デビューしてからは、ご依頼もいただくようになり、締め切りもあって大変ですが、作品のアイデアは尽きません。子どもたちが起き出す前の早朝の数時間が小説を書く時間です。場面場面で自分の役割を切り替えて集中できるというのは、学生時代に演劇をやっていたおかげでしょうか。



-演劇から始めて小説を書くようになったきっかけはどんなことだったのでしょう

 最初、英語のミュージカルをやっていて、それから日本語のお芝居もやりたくなりました。学内にはいろんな演劇サークルがあるので、あちこちに声をかけて、毎年1回みんなで集まって上演していました。当時から、歴史ファンタジーみたいな題材をやっていましたね。

デビュー作「震雷の人」と

 本当は、演出とか脚本などの演劇関係の仕事に就きたかったんですけど、就職氷河期で、劇団の研修生募集なんかも全然なくて。それに、筑波大は私にとっては地元ですが、他の仲間は卒業とともに全国へ散らばってしまって、取り残されたような感じもありました。演劇って、脚本から照明や音響まであって、一人ではできませんが、そういうことも含めて全部一人でできることってなんだろう、と考えた時に「小説だ」と思ったんです。

 小説教室には18年ほど通いましたが、なかなか芽が出なかったですね。それでも諦めきれませんでした。ミステリーや現代ものも書きましたが、自分で書いていていちばん筆が進むのが中国ものだということに気づいて、今は中国の時代小説を中心に書いています。歴史の中に埋もれてしまったような実在の人物に焦点を当てて、史実を基にしつつ、架空の人物を交えて物語を作っています。一人目の子どもを出産した頃に、このままデビューせずに終わってしまうのかな、なんて思ったことがあって、そこで気合を入れて中国史をみっちり勉強したのが、デビュー作につながりました。



-大学での学びは作家としての活動に役立っていますか

 高校生の頃は、将来やってみたいことがたくさんあって、進学先の候補もいくつか考えましたが、入学した時点で道が限られてしまうように感じました。担任の先生が筑波大の卒業生だったこともあって、筑波大なら入学後も幅広く勉強できると聞き、それで決めました。

 実際に入学して、すごく多彩な大学だという印象を受けました。変わった人というか面白い人がたくさんいて驚きました。留学生も多くて、しかも自分よりずっと年上だったりして、とにかくいろんな人がいるというのに感動しました。

 日日(日本語・日本文化学類)だったので、今の作品作りにあらゆる面で役立っていると思います。ものを書くことや、勉強をする姿勢は、やはり大学で学んだと思いますし、今思うと、授業で教えてもらったことに、つまらないものはなにもなく、物語の中で全部使えそうな気がします。先生たちも、学生のやりたいことに対してとても肯定的で、そういう経験も、試行錯誤しながら自分の可能性を追求していける土台になったのかなと。



-これからどんな作品を書いていきたいですか

 やはり、見逃されてしまったり、誰にも気づかれなかったような出来事や感情を、丁寧に発掘して表現したいというのが一番です。歴史って勝者や官僚の記録でもあるので、実際には教科書に出ているようなことだけではないし、調べていくと、敵味方に関係なく、惹かれてしまう面白い人物がたくさんいるんです。そこに、中国ならではのスケール感や自分なりのキャラクターも加えて、新しい物語として光が当たるようにしたいですね。そうやって書いたものが、多くの人に読んでもらえれば嬉しいです。



-後輩たちに対してメッセージをぜひ

今は、いろんな意味で、自分の頃とは状況が全く違いますよね。コロナもあるし、社会的な環境も厳しくて、辛い日々を送っている人もいるでしょう。そういう時には、無理せず、気持ちを声に出して打ち明けて欲しいです。筑波大には、多様な人々がいて、学生をサポートする組織もたくさんあります。そういうところにいっぱい頼っていいと思うんです。もちろん、最後に決めるのは自分だし、その時の馬力になるのは負けん気みたいなものだと思いますが、一人で頑張り過ぎないで。応援しています。

色紙

PROFILE  ちば ともこ

1979年 茨城県生まれ
2001年 筑波大学日本語・日本文化学類卒
2002年 茨城県庁に入庁、山村正夫記念小説講座に入る。
2020年 『震雷の人』で第27回松本清張賞を受賞して、「千葉ともこ」の筆名で小説家デビュー。
現在はデビュー作の2作目や『オール讀物』(文藝春秋)で中国の神獣をコンセプトにした小説、『小説新潮』(新潮社)で杜甫《飲中八仙歌》をモチーフにした小説などを執筆中。



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TSUKUCOMM Vol.52