生物・環境

東アジア域における降雨の減少は熱帯域の海水温の影響 ~暖かいインド洋と冷たい太平洋の複合的効果~

筑波大学生命環境系の植田宏昭教授、国立環境研究所の釜江陽一研究員(現所属:筑波大学生命環境系 助教)らの研究グループは、気候モデルを用いた数値実験の結果と観測データを照合し、アジア域の熱帯から中緯度にかけての広域的な降水システム「アジアモンスーン」の近年の変動は、遠く熱帯域の海水温の特異的な傾向によって説明されることを明らかにしました。 本研究では、近年の熱帯における特異的な水温分布の影響を調査するため、海面水温分布を仮定した大気大循環モデルによる再現実験に加え、海面水温を海域ごとに分けて設定した理想化実験を実施しました。その結果、中国華北部から日本付近にかけて東西約4,000kmに渡る地域で降水量が少なく、熱帯西部太平洋上と西インド洋上で多い、という近年の夏季降水量の傾向を再現することに成功しました。理想化実験の結果を加味すると、東アジア域の少ない降水量は、熱帯太平洋の海水温分布(中部・東部で低く、西部で高い)にあることがわかりました。本研究によって、従来知られていたよりも広い範囲で、熱帯の海洋が遠く離れた中緯度の気候に影響していることが明らかになりました。

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図 近年の世界的な海水温の分布とその東アジア域への影響。1999~2013年の特徴を1979~1998年の平均値と比べて示したもの。断面図は南緯5度から北緯5度の平均値。日本の南方にある熱帯西部太平洋では、水深150m付近に1.5℃程度のピークを持つ高温の海水が存在し、海面の水温も高い。インド洋でも全体的に海面水温が高い。一方で熱帯東部太平洋では冷たい海水が分布しており、太平洋上で明瞭な東西差が確認できる。熱帯太平洋の特徴的な海水温の分布により、フィリピン付近では対流活動が活発で、大気の流れを変えることで遠く離れた東アジア域は高気圧に覆われ、降水が少なくなる。

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