生物・環境

温度に応答して自らを保護する食中毒細菌集団

国立大学法人筑波大学 医学医療系 尾花 望 助教と生命環境系 野村 暢彦 教授らの研究グループは、食中毒細菌であるウェルシュ菌(Clostridium perfringens)のバイオフィルム(集団)に抗生物質・酸素耐性をもたらす細胞外マトリクスタンパク質を発見しました。

細菌はバイオフィルムを形成して生存しています。これは細菌にとっては環境中を生き抜く生存戦略の一つですが、環境中に残存した病原細菌が人間に感染して疾患を引き起こす可能性があるため、バイオフィルムの性質を理解し防除することが重要です。本研究グループは、ウェルシュ菌が繊維状のタンパク質(マトリクス)を生産することによって、酸素や抗生物質に対する耐性を向上させ、強固なバイオフィルムを形成することを発見しました。また、繊維状タンパク質が生産できないウェルシュ菌は酸素や抗生物質に対する耐性が低くなることがわかりました。

一般的に病原細菌は、宿主(ヒト、動物)の体内温度(約37℃)に応答して病原性を調節していることが知られています。しかしながらウェルシュ菌の場合、宿主体内よりも低い温度に応答して繊維状タンパク質を豊富に産生していることがわかりました。また、ウェルシュ菌のバイオフィルム中には、繊維状タンパク質を生産する細胞と生産しない細胞が共存していることを見いだしました。これらのことから、酸素があると生育できないウェルシュ菌は温度を介して、酸素が豊富な宿主の外部環境を認識し、バイオフィルム形成を調節していること、さらにバイオフィルム内で役割分担しつつ、集団として生存していることが示唆されました。



図. ウェルシュ菌が生産する繊維状EPSマトリクス(BsaAポリマー)。(A)ウェルシュ菌が形成する膜状バイオフィルムの走査型電子顕微鏡画像。スケールバーは2μmを示す。(B, C)ウェルシュ菌が形成する膜状バイオフィルムの共焦点レーザー顕微鏡画像。2次元画像(B)と3次元画像(C)を示す。蛍光染色した細胞とBsaAタンパク質をそれぞれ緑と赤で表示。スケールバーは20μmを示す。

PDF資料

プレスリリース