生物・環境

菅平高原実験所樹木園内から新種線虫を発見〜進化研究モデル系としての利用に期待〜

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線虫類は非常に多様性の高い動物群で、昆虫よりも推定種数が多いという試算もあるほどです。一般には糸状の形をしており、長さは 1 mm 以下のものから数メートルのものまでいます。食性も寄生から、捕食、微生物食と幅広く、地球上のあらゆる環境に生息すると考えられています。 線虫には多くの有用種(モデル生物や生物防除資材)、有害種(人畜、植物寄生虫)が含まれますが、その多様性の解明はまだまだ不十分で、未利用の研究材料や遺伝資源が数多く含まれているとみられています。本研究では、線虫の多様性解明と、その研究資材、比較モデル系としての利用を目的とした線虫多様性調査を行い、その過程で筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所(長野県上田市)の樹木園内から検出された新種線虫の生態の解明と分類学的記載を行いました。


新たに見つかった線虫はCryptaphelenchus 属に所属するもので、C. abietisと名付けました。この属の線虫は、糸状菌食性の線虫を祖先とし、捕食性、昆虫寄生性を経て再び糸状菌食性を獲得するという複雑な食性進化過程を経て成立したと考えられます。近縁種には捕食性、昆虫寄生性など多様な食性を持つものが含まれており、食性や、昆虫利用様式といった生理、生態的進化過程の研究材料として期待されていました。しかし、その独特の食性から、実験に必要な培養株の確立が遅れており、研究資材としての利用は進んでいませんでした。


本研究では、新種の発見に加え、糸状菌を餌とすることで、C. abietisの安定的な人工培養系を確立することに成功しました。Cryptaphelenchus 属の長期的培養株の確立は世界初となります。


この培養系を用いて、近縁種群やその祖先型となる糸状菌食性線虫との多面的な比較解析を行うことで、この科に含まれる重要農林業害虫の摂食、寄生性に関する知見が得られるとともに、近縁種群全体が新たな進化生物学モデル系として利用可能になることが期待されます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学生命環境系/山岳科学センター菅平高原実験所
出川 洋介 准教授

森林総合研究所関西支所
神崎 菜摘 主任研究員

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