新手法で微生物の電気伝導性測定に成功、その生態系理解に迫る
微生物のコミュニティにおける電気伝導度を測定する新手法を開発しました。微生物を使った電池や電気化学センサーの開発に貢献できるだけでなく、微生物の生態系に電気がどのようにかかわっているのかを明らかにするためのツールとして利用することが期待されます。
微生物の一匹一匹は目に見えませんが、数千万匹、数億匹の微生物がつくる集団になると私たちでも視認することができます。こうした微生物の集団はバイオフィルムと呼ばれ、その中では細胞ごとの機能分化やコミュニケーションが行われるなど、さまざまな生存戦略が立てられています。
微生物の中には電気伝導性を有するものがおり、その微生物がつくるバイオフィルムの中では電気が流れることが近年分かってきました。バイオフィルム内で流れる電子は、微生物燃料電池、嫌気性消化、電気化学センサーなどさまざまな環境・エネルギー技術の開発に役立てられていますが、電気伝導が微生物の生態に与える影響や、微生物の世界における電気伝導の普遍性は分かっていませんでした。微生物の電気伝導度測定には電極上へのバイオフィルム形成が必要ですが、これは多くの微生物で難しかったためです。
本研究では、電極上でのバイオフィルム形成プロセスを必要としない、新しいバイオエレクトロニクスシステムを構築しました。バイオフィルムの一形態であるコロニーと呼ばれる微生物の集団を寒天上に形成し、それを直接電極へ押し当てて電気伝導度を測定するという極めてシンプルな実験系を新たに考案し、実証しました。コロニーは培養可能な微生物のほとんどでみられる形態であるため、本技術は電気伝導度の測定が可能な微生物種の幅を著しく広げることができます。実際に本技術を用いた研究で、これまで電気伝導度の測定が困難だった日和見菌である緑膿菌や、環境中に広く存在する枯草菌が電気伝導性を有することを実証しました。さらに、本技術により、電気を流すモデル微生物であるShewanella oneidensis MR-1の電気伝導の分子メカニズムを解明することもできました。
本成果は、微生物燃料電池、嫌気性消化、電気化学センサーなど環境・エネルギー技術の開発に役立つ微生物の選定への応用や、微生物の電気的生態系の解明を加速させる基盤技術として活用されることが期待されます。
PDF資料
プレスリリース研究代表者
筑波大学生命環境系徳納 吉秀 助教
掲載論文
- 【題名】
- Colony-based electrochemistry reveals electron conduction mechanisms mediated by cytochromes and flavins in Shewanella oneidensis
(微生物コミュニティ内の導電率測定技術の開発と導電機構の解明) - 【掲載誌】
- Environmental Science and Technology
- 【DOI】
- 10.1021/acs.est.4c00007