生物・環境

山地河川における洪水のタイミングは 地形によらず流域の大きさが強く規定する

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観測が難しく河川流出データが乏しかった、起伏が大きい中規模な山地流域で、洪水時の水位変動データを多地点で取得することに成功しました。低起伏山地における既往研究との比較から、洪水の伝播は、地形の起伏に関わらず流域面積など流域の規模の影響を強く受けることが判明しました。

気候変動により激甚化している土砂災害の予測精度を向上させる上で、山地における雨水流出の実態把握は重要な課題です。このため、国内外の数多くの山地で洪水の観測が実施されてきました。しかし、起伏が大きい山地では、河川流量が少ない小規模流域(流域面積1km2以下)にデータが限定されていました。急勾配かつ水・土砂の流出が激しい中規模流域(同1~10km2程度)は観測が難しく、データがほとんど得られていません。

本研究では、国内の代表的な大起伏山地である中部山岳域にある筑波大学・井川演習林(静岡県)を対象に、流域面積が約0.2~9.0km2の互いに隣接する7流域群において観測を実施しました。

流水に直接触れずに水位を計測する超音波水位計の導入で観測機器の流失リスクを下げ、観測精度に大きな影響を及ぼす河道地形の変動が起きにくいサイトを選定することで、大起伏山地における洪水時の河川水位データを集積することができました。得られたデータから、雨水の流出を特徴づけるピーク遅れ時間(降雨ピークと流出ピークの時間差)を解析した結果、流域面積が大きいほどピーク遅れ時間が長くなる傾向が認められました。解析結果を低起伏山地の既往研究と比較したところ、流域面積が同規模の流域間でピーク遅れ時間の特徴が類似しました。すなわち、ピーク遅れ時間は起伏の大小に関わらず流域規模の影響を強く受けており、斜面が長大な山地であっても、斜面が短い山地と同じくらい速く洪水が下流へ伝播することが示唆されました。

本研究結果は、これまで実態が把握されてこなかった大起伏で中規模な山地流域の雨水流出プロセスの解明につながり、土砂災害の発生予測精度の向上に寄与することが期待されます。

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プレスリリース

研究代表者

羽鹿 孝文(生命地球科学研究群環境科学学位プログラム)

筑波大学生命環境系/山岳科学センター
山川 陽祐 助教

掲載論文

【題名】
Spatial distribution of rainfall-runoff characteristics and peak lag time in high-relief meso-scale mountain catchments where observations are scarce.
(観測事例の乏しい中規模の大起伏山地における降雨流出特性とピーク遅れ時間の空間分布)
【掲載誌】
Hydrological Processes
【DOI】
10.1002/hyp.15177

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