生物・環境
寄生蜂による非寄主昆虫での寄生を成功させる「海賊的寄生」様式を発見

寄生蜂類は、非寄主昆虫にも産卵することがあり、これはアクシデントだと見なされてきました。しかし今回、非寄主昆虫に産卵した場合でも、それに別種の蜂が同時に産卵すると、寄生が成功しうることを発見し、この寄生様式を「海賊的寄生(pirate parasitism)」と名付けました。
寄生蜂類は、寄主となる節足動物の体に雌成虫が産卵すると、子は寄主(宿主)の体に寄生して成長し、最終的に寄主を殺して成虫になります。寄生蜂の雌成虫は、複雑な環境の中で適切な寄主を探し出して産卵しますが、しばしば寄主と同所的に生息する非寄主昆虫(寄主として利用できない昆虫)にも産卵することが知られています。この時、非寄主に産卵された子は寄主の免疫によって殺されるため、このような非寄主への産卵はアクシデントであり、非適応的な行動だとされてきました。
今回、寄生蜂の一種であるカリヤコマユバチが、非寄主であるクサシロキヨトウ幼虫に産卵した際に、クサシロキヨトウ幼虫を寄主とする別の寄生蜂ギンケハラボソコマユバチがほぼ同時に産卵すると、一定の割合でカリヤコマユバチの寄生が成功することを発見し、この寄生様式を「海賊的寄生(pirate parasitism)」と名付けました。これは、単独の寄生ではクサシロキヨトウ幼虫の免疫を抑制できないカリヤコマユバチが、それが可能なギンケハラボソコマユバチによって免疫を抑制されたクサシロキヨトウ幼虫を乗っ取ることで生じたと考えられます。海賊的寄生の存在は、寄主が一時的に不在となった環境でも寄生蜂類の繁殖可能性が残ることを意味し、従来非適応的だと考えられていた非寄主への産卵に適応的意義を認める発見です。
今後、海賊的寄生の普遍性やその生理メカニズムを調べることで、自然生態系および農業生態系の理解促進や、寄生蜂類を用いた害虫管理への応用に貢献するものと期待されます。
PDF資料
プレスリリース研究代表者
筑波大学生命環境系藏滿 司夢 助教
掲載論文
- 【題名】
-
Multiparasitism enables a specialist endoparasitoid to complete parasitism in an unsuitable host caterpillar
(共寄生は内部寄生性スペシャリスト寄生蜂の非寄主幼虫体内での発育を可能にする) - 【掲載誌】
- Scientific Reports
- 【DOI】
- 10.1038/s41598-025-91403-3