生物・環境

小さなハダニが教えてくれる排泄物管理の重要性

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 集団生活を送る小型の節足動物、ケナガスゴモリハダニが、巣の特定の場所に排泄することで卵を排泄物の害から守っていることを突き止めました。社会性をもつハダニで排泄行動の適応的機能を実証した初めての研究であり、節足動物の社会性や巣生活の進化を理解する上で、重要な成果と言えます。

 生物が集団で生活する上で、排泄物の適切な管理は、病気の予防や生活空間の衛生維持にとって重要です。しかし、こうした行動がどの程度、生存や繁殖に有利に働くのかを実験的に検証した研究は、これまでほとんど行われていませんでした。

 親世代と子世代が同居する亜社会性ハダニであるケナガスゴモリハダニ(Stigmaeopsis longus (Saito))は、巣の出入り口付近の特定の場所でのみ排泄する「共同トイレ」行動をとることが知られています。本研究チームは今回、この行動にどのような適応的意義があるのかを調べました。具体的には、このハダニの寄主植物の一つであるクマザサから抽出した化学成分を用いて、ハダニの巣内における排泄場所の位置や数を人為的に操作しました。そして、異なる密度(中密度・高密度)の雌集団において、繁殖や生存への影響を比較しました。

 その結果、排泄場所を巣の端から中央に変えると、成虫や幼虫の生存には大きな影響は見られなかったものの、高密度条件では卵の生存率がわずかに低下することが分かりました。また、どの密度条件でも排泄場所の操作によって巣の増築が促進されることも明らかになりました。さらに、巣の出入り口を物理的に塞ぎ、巣の増築を妨げたところ、中密度条件でも卵の生存率が著しく低下することが分かりました。これらの結果から、排泄物の空間的な管理は特に、動くことのできない卵の生存にとって極めて重要であることが示されました。

 本研究は、社会性をもつハダニにおいて、排泄行動の適応的機能を実証した初めての研究であり、節足動物における社会性や巣生活の進化を理解する上で、重要な成果です。

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プレスリリース

研究代表者

新藤 啓太 生物学学位プログラム(博士前期課程)2年次

筑波大学生命環境系/山岳科学センター
佐藤 幸恵 准教授

掲載論文

【題名】
The Adaptive Function of Waste Management in a Social Spider Mite.
(社会性ハダニにおける排泄物管理の適応的機能)
【掲載誌】
Biology Letters
【DOI】
10.1098/rsbl.2025.0397

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