医療・健康

TSUKUBA FUTURE #003:身心統合スポーツ科学

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人間総合科学研究科 征矢 英昭 教授(代表)


1:脳科学による軽運動効果の検証

 「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」。今ほどこの詩の真意が問われる時代はありません。本プロジェクトは、"運動することによって、からだとこころのバランスがとれ、活力を生む"メカニズムを明らかにし、新たな運動プログラムを構築することを目的としています。


 認知工学における最新の研究では、10分の軽運動で前頭前野背外側野(ブロードマン46野)が活性化し、実行機能(executive function)の向上が見られることが明らかになっています。この"46野"は、うつ病や認知症、自閉症において機能低下がみられる部位であることから、同部位の機能向上を目的とした、楽しくかつ意識化した軽運動(G-ball運動、ヨガ、そして武道の型など)など、新たな運動プログラム開発が期待されます。


 すでに動物実験では、低強度の運動でも海馬が活性化され、認知機能や抗うつ・抗不安効果が得られること、さらにその背景として、からだの成長に不可欠な血中ホルモン(IGF-I)の脳内作用が関連することを世界で初めて証明しました(※注1)。まさに、脳は筋肉と同じように鍛えることで発達が促されるのです。


10分間の中強度運動で高まる実行機能と背外側前頭前野

10分間の中強度運動で高まる実行機能と背外側前頭前野

G-ball運動

G-ball運動


2:身心の自己調整システムの開発

 日常生活を快適に営むために、そしてアスリートがここ一番で力を発揮するためには、身心のコンディションを整えることが必要不可欠です。筑波大学では、心理状態の自己評価から心の状態を二次元モデルに視覚化するプログラムを開発しました(※注2)。この心理状態測定システム(特許第4378455号)を用いて心理状態をモニタリングし、軽運動などリラクゼーションをもたらす身体技法を選択的に活用することによって、各個人の特性に応じた最適な状態へとセルフ・コントロールすることが可能となります(個性対応型「身心の自己調整システム」)。身心の状態を測定することから運動の効果を検証しています。


3:新しい体育・新たな身体科学・卓越した人材を輩出する教育

 健康づくりのための地域講習会に学生が積極的に参加し、指導を行っています。本学では、道具を使わずに一定の運動量を保てる「フリフリグッパー体操」を考案し、それによって脳の指令塔である前頭前野の血流量が増加し、積極的な気分になることを実証しました(※注3)。地域の人々と共に、楽しく体操を実践することも学生にとっては重要な経験です。


 また、2008年度から大学院共通科目として「パフォーマンス&アーツにみる身体」を開講し、運動やデザインについて、身体に関する哲学や歴史のほか、運動生理学、コーチング学、心理学などを網羅したトータルな知から考える授業を展開しています。


 嘉納治五郎先生は、本学の前身である高等師範学校及び東京高等師範学校の校長として、3期約24年にわたって活躍されました。嘉納先生の「精力善用 自他共栄」の理念とともに、「一世化育」(一人の優れた教えが広く万人を感化し、一生かけた優れた教えは百代に及んでいく)の教育理念は、生誕150周年を迎えた2010年において一段と大きな意味をもたらします。私たちは、嘉納先生の知と実践を見据え、「21世紀の嘉納治五郎」を育成していきます。


※注1 Neuron, 2010,スペインとの二国間共同研究(代表:征矢英昭教授「たくましい心を育むスポーツ科学イノベーション」[2010~2013年度:文科省特別経費研究プロジェクト])
※注2 坂入洋右准教授
※注3 征矢英昭教授


文責:広報室 サイエンスコミュニケーター


関連リンク

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