医療・健康

造血幹細胞移植の合併症を抑制する抗体を初めて特定

研究イメージ画像 (Image by Design_Cells/Shutterstock)


移植片対宿主病(GVHD)は、造血器悪性腫瘍や再生不良性貧血に対する治療として行われる同種造血幹細胞移植における最も重篤な合併症で、移植の成否を左右するだけでなく、生命予後にも直接影響します。現行の治療法は免疫抑制剤が第一選択ですが、抵抗性を示すことも多く、より優れた治療法の開発が急務となっています。GVHDが悪化する一因として、免疫抑制機構の中枢を担う制御性T細胞(Treg細胞)が機能不全に陥ることが知られていますが、Treg細胞がどのように制御されているか、その分子機構の全容は未だ明らかになっていません。


本研究では、ヒトのTreg細胞上に発現する免疫受容体DNAM-1の機能を阻害する抗体が、GVHDの発症を抑えることを初めて明らかにしました。まず、GVHD病態の際に発現が上昇する免疫細胞に発現する受容体としてDNAM-1に着目し、DNAM-1がTreg細胞の機能を制御する重要な分子であることを見いだしました。次に、ヒト末梢血細胞によって誘導されるGVHDモデルマウスを用いて、抗ヒトDNAM-1阻害抗体の効果を検証したところ、この阻害抗体は、GVHDを誘導したマウスの生存期間を顕著に延長させることが分かりました。さらに、DNAM-1の阻害が、Treg細胞に作用し、GVHD病態を軽快させる分子メカニズムを解明しました。


以上の結果は、DNAM-1を標的としたGVHD の新たな治療法の開発につながると考えられます。加えて、Treg細胞は自己免疫疾患や炎症性疾患などの病態形成にも関与していることから、DNAM-1阻害によるTreg細胞の機能向上という新たなコンセプトの治療戦略を、幅広い疾患に応用できる可能性があります。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学医学医療系
澁谷 和子 准教授

TNAX Biopharma株式会社
阿部 史枝 研究開発部 アソシエイト リサーチ サイエンティスト

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