医療・健康

ランニング時のストレス反応の脳内調節機構を解明~主役は視床下部の二つのホルモン~

研究イメージ画像 (Image by oneinchpunch/Shutterstock)

 「ストレス」と聞くと悪いイメージを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、一定程度のストレスまでは生体が適応でき、たくましい身心を育むなど有益な面もあります。医学生理学的には、生体において副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌量を増やす刺激がストレスと定義されます。息が上がる程度のランニングなど中強度の身体運動も、健康の維持・増進効果を持つストレスです。


 一般に、ストレス反応の制御は脳の視床下部という領域が担いますが、ストレスの条件によりこの調節機構は異なります。運動時にも視床下部がストレス反応を制御するのか、さらには、どのような因子がストレス反応を調節するのかは分かっていませんでした。


 これらのメカニズムの解明には、関与が想定される因子の働きだけを阻害して、その結果がどうなるかを調べる薬理的介入が有益です。本研究ではこの方法を用いて、視床下部から放出されることが知られている二つのホルモン、アルギニン・バソプレッシン (AVP) と副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (CRH) がランニング時のACTH分泌調節に関与するかどうかを検証しました。


 ラットがランニングをする前に、AVP またはCRHの受容体作用を特異的に阻害する薬を投与すると、ランニングで生じるACTHの分泌量上昇が、投与しない場合に比べて減少しました。AVP とCRHの作用をどちらも阻害すると、ACTHの分泌量上昇はより強く抑制されました。また、ランニング時にはAVP とCRHを産生する視床下部の神経細胞が活性化することも確認されました。


 これらの結果から、ランニング時に生じるACTH応答は視床下部が制御しており、その因子はAVP とCRHであることが初めて証明されました。


 中強度の運動は健康に有益なストレスとなりますが、過度になるとオーバートレーニング症候群を引き起こすなど悪いストレスにもなり得ます。運動時のストレス反応を調節する機構の解明は、運動がこのような対極的効果をもたらす機序を明らかにし、適切な運動処方の提案などに発展することが期待されます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学体育系/ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター(ARIHHP)
征矢 英昭 教授

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ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター(ARIHHP)