医療・健康

運動のばらつきが卓越した運動学習能力を生む~構成論的「失敗のすすめ」~

研究イメージ画像 (Image by Olimpik/Shutterstock)

 私たち人類に備わる探索能力は、未知の体験や知識の獲得をもたらし、種としての成功に導いてきました。このような能力は、我々の学習機能にとって本質的な役割を果たしているかもしれません。


 アスリートは思い描いた運動と生成した運動の間に誤差が生じた場合、素早く誤差を修正し、正しい運動を実行することができます。一方、スポーツ初心者は、誤差を修正するまで時間を要します。


 このような運動学習能力の差は、脳が運動のばらつきを活用し、正しい運動指令を探索する能力によって生じるのではないか。本研究チームはそのような仮説を立てました。実際に、特定の運動タスクに対し、運動のばらつきが大きい個人ほど、運動学習のスピードが速くなるという相関関係が報告されています。しかし、その背景に存在するメカニズムは謎のままでした。


 本研究チームは、未解明で複雑なこの問題を、脳の働きを工学的に再構成する構成論的手法(脳を創ることで脳を理解する方法)で検証しました。具体的には、ニューラルネットワークによって構成される人工的な適応システムが、高い自由度を持つ身体を通じて運動スキルを獲得する過程を数理的に解析しました。その結果、たとえタスク成功率が一時的に減少したとしても、運動のばらつきを活用して探索することが、どのような運動に対してどのような誤差が生じるかという脳内表現を獲得する上で有効なことを示しました。さらに、この脳内表現を用いれば、運動の誤差を基に運動指令を効率的に修正できることを明らかにしました。


 これらのことは、運動のばらつきが大きい方が、運動の修正方法を知ることにつながり、その結果として運動学習が効率的になることを意味しています。これにより、これまで謎だった運動のばらつきと運動学習スピードの関係の背景にある理論が明らかになりました。 本研究成果は、特に新しいスポーツ種目に取り組む場合や、リハビリテーションなど新しい身体構造に対して運動スキルを学習するような場面において重要です。将来的には、効率的なトレーニング方法の開発に貢献することが期待されます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学 システム情報系
井澤 淳 准教授

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