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激しい運動が誘発する脳疲労の仕組みを解明~低酸素血の関与を実証、対処法開発に期待~

研究イメージ画像 (Image by lzf/Shutterstock)

 登山やトレイルランなど高所での身体活動やスポーツが人気を博すようになりました。しかし、高所になればなるほど、運動が激しくなればなるほど疲労を感じやすくなり、転倒や滑落の危険も高まります。これには、注意や判断など脳の実行機能の低下(認知疲労)が関与していることが想定されます。実際、本研究チームは、高所を模した低酸素濃度の空気を吸入しながら運動(以下、低酸素下運動)すると、脳の前頭前野背外側部 (DLPFC)の活動が低下し、認知疲労が生じることを明らかにしてきました。その際には、血中の酸素飽和度 (SpO2)が大きく低下することも確認しています。


 本研究チームは今回、更に研究を進め、運動時に生じるSpO2の低下が認知疲労の一因かどうかを検証しました。具体的には、14人の被験者を対象に、10分間の中強度ペダリング運動を行い、その前後に被験者の実行機能を調べる課題を行いました。被験者を中程度の低酸素状態(標高3500m相当)に置き続けた場合と、運動中に限って供給する酸素濃度を上げ、SpO2の低下を防いだ場合を比較しました。その結果、運動中のSpO2低下を防ぐと、運動後の左脳DLPFCの活動低下と実行機能低下のいずれも防止できることが分かりました。これにより、低酸素下運動で生じる認知疲労の発現には、SpO2の低下 (低酸素血)が関与していることが、初めて実証されました。


 脳の認知疲労は、高所での活動に加え、マラソンや球技など長時間にわたる競技の後半で選手のパフォーマンスが低下する現象にも関わっている可能性があります。


 本研究成果は、SpO2モニタリングによる高所環境での認知疲労発現予測や、SpO2低下を抑制する酸素吸入サポート・事前トレーニング法(低酸素環境への順化トレーニングなど)など、認知疲労の対処法開発につながることが期待されます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学体育系/ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター(ARIHHP)
征矢 英昭 教授
新潟医療福祉大学
越智 元太 講師

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ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター(ARIHHP)