医療・健康

脂肪酸のバランス異常は喘息の悪化をもたらす

研究イメージ画像 (Image by Image Point Fr/Shutterstock)

 喘息治療はこの30年間で大きく進歩し、吸入ステロイド薬を中心とした治療によって多くの患者は良好にコントロールされていますが、十分な治療を行っても症状が改善されない重症患者も5%程度存在しています。喘息の発症や悪化のリスク因子の一つとして、肥満、すなわち脂肪酸の過剰蓄積が知られていますが、臓器における脂肪酸組成の不均衡との関連は不明でした。本研究では、炭素数12(C12)〜C16の飽和および一価不飽和脂肪酸からC18以上の長鎖脂肪酸への合成を担う脂肪酸伸長酵素ELOVL6に着目し、脂肪酸の過剰蓄積がなくても、脂肪酸組成の不均衡が生じると喘息の病態が悪化することを見いだしました。


 まず、重症喘息患者の気道上皮でELOVL6 の発現が低下していることを明らかにし、さらにELOVL6を欠損させた喘息モデルマウスを用いて、アレルギー性気道炎症におけるELOVL6の役割を検証しました。その結果、ELOVL6欠損喘息モデルマウスの肺では、対照マウスと比較して、C14-C16脂肪酸が増加する一方、C18-C22脂肪酸が減少しており、アレルギー性免疫応答が亢進するとともに、気道炎症が増強していました。また、セラミドとその代謝物S1Pの発現も対照マウスに比べて高く、これらの合成を阻害すると気道炎症が改善したことから、ELOVL6 が脂肪酸組成とセラミド-S1P生合成の調節を介して、アレルギー性気道炎症の制御に重要な役割を果たすことが明らかになりました。以上より、重症喘息の要因の一つに脂肪酸組成の不均衡があり、これを制御するELOVL6が喘息治療の新規標的となり得ることが示されました。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学医学医療系
森島 祐子 准教授

霞ヶ浦医療センター/筑波大学附属病院土浦市臨床教育センター
阿野 哲士 講師


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