医療・健康
腸は果糖を「味わう」ことで生殖に影響を与える〜交尾と栄養の協調メカニズムを発見〜
(Image by PhotoSGH/Shutterstock)
丹羽 隆介 教授
群馬大学 生体調節研究所
西村 隆史 教授
久留米大学 分子生命科学研究所
佐野 浩子 講師
卵子は次世代に生命を継承する役割を担っており、その形成過程は、個体を取り巻くさまざまな外的要因に影響されます。しかし、外環境の情報が個体の中で処理され、卵形成に影響するメカニズムはよく分かっていません。
ショウジョウバエでは、交尾によってメスの腸内分泌細胞からニューロペプチドF(NPF)というホルモンが分泌され、これが卵巣に受容されると生殖幹細胞の増殖が促されます。本研究では、この交尾依存的なNPF分泌と生殖幹細胞の増殖には、餌に由来する糖の中でもフルクトース(果糖)が選択的に影響を与えることを解明しました。グルコース(ブドウ糖)のみを含有する餌で飼育した場合でも、「ポリオール経路」と呼ばれる代謝経路でグルコースがフルクトースに変換され、これが、腸内分泌細胞に存在する味覚受容体で感知されてNPFの分泌を促しており、グルコース摂取量が不十分だと、生殖幹細胞の増殖および造卵は活性化されませんでした。
以上の結果は、体内で作られた糖を腸が「味わう」ことで栄養状態を感知すること、これが交尾による生殖の活性化に必須であることを、あらゆる動物を通じて初めて示すものです。ポリオール経路は、動物種にかかわらず進化的に保存された代謝経路であり、フルクトースを感知する味覚受容体は、ヒトを含む哺乳動物の腸内分泌細胞にも存在しています。ヒトでは腸内分泌細胞から分泌されるホルモンが生活習慣病の発症に関与することから、今回発見したメカニズムは、ヒトの生殖や代謝の調節、さらに生活習慣病発症の理解にもつながると期待されます。
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プレスリリース研究代表者
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター丹羽 隆介 教授
群馬大学 生体調節研究所
西村 隆史 教授
久留米大学 分子生命科学研究所
佐野 浩子 講師