医療・健康

脳活動を簡単に可視化する数理解析の新技術を開発

研究イメージ画像 (Image by Triff/Shutterstock)

 起床して時間を確認し、家を出て会社に着き、仕事を処理する。私たちのそんな日常生活の裏では、脳神経細胞が活動し、複雑に絡み合った事柄を処理しています。本研究では、脳の複雑な働きを理解するため、このような日常生活のさまざまな場面で起こる脳の神経細胞の活動を簡便に可視化する数理解析技術を開発しました。従来の技術は複雑な数学的手続きが必要でしたが、一般に利用されている統計解析ソフトを用い、脳神経細胞の活動を可視化できるように改良しました。


 ベースにしたのは状態空間解析という技術です。脳では、さまざまな出来事に対応する神経細胞の活動が混在しています。この技術は、観測された活動データの中でどの事象が最も大切なのか、複数の活動があるのかなどを見つけ出すことができます。その際、脳が向き合う場面が時々刻々と変わるのに応じ、脳経細胞活動の変化を追いかけることが重要です。この技術を土台にした手法が次々に開発されてきましたが、いずれも高度な数学力とプログラミング技術が利用者に必要でした。


 今回の研究では、プログラミングをほとんどせずに解析を実現することを目指しました。その結果、一般的な統計解析ソフトを利用し、わずか二つの統計処理を実行するだけで、時々刻々と変化する脳神経細胞の活動を可視化することに成功しました。可視化された活動は円、直線、点などの図形(軌跡)として描画されます。これらは、脳が処理する情報が時々刻々と変化する(円を描く、カーブを描く)、同じことを考え続ける(一点にとどまり変化しない)などの状態を表現します。これにより、会社の場所を想起する、記憶に応じて家を出るなど一連の認知行動を反映した1秒以下の短時間に起こる神経細胞の活動の変化を読み取ることができます。開発にあたり、複数の研究チームが取得していたサルの脳神経活動の観測データを活用して従来の手法と比較し、新技術の妥当性を検証しました。


 今回開発した解析技術を用いると、誰でも簡単に全ての種類の神経活動データを解析することができます。この技術を活用し、脳の新たな情報処理の仕組みが発見されることが期待されます。


PDF資料

プレスリリース

研究代表者

筑波大学医学医療系
山田 洋 准教授

掲載論文

【題名】
Stable neural population dynamics in the regression subspace for continuous and categorical task parameters in monkeys.
(霊長類における、連続変数とカテゴリー変数の回帰部分空間に観察される安定した神経活動集団のダイナミクス)
【掲載誌】
eNeuro
【DOI】
10.1523/ENEURO.0016-23.2023

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