脂肪酸により脂質の生合成を制御する新規経路を発見
SREBPは生体内で脂質の生合成を担う重要なタンパク質です。本研究では、特に脂肪酸合成を担うSREBP-1cの新たな切断酵素を発見するとともに、SREBP-1cによる肝臓の脂肪酸の生合成が飽和脂肪酸により活性化され、多価不飽和脂肪酸により抑制されるメカニズムを初めて明らかにしました。
転写因子SREBP(ステロール調節配列結合タンパク質)は脂質生合成の主要制御因子です。細胞内の小胞体に存在する前駆体SREBPタンパク質は、ゴルジ体を経て核内に移行して脂質の生合成関連遺伝子を転写促進する働きがあり、コレステロール制御機構の中核となっています。一方、SREBPファミリーの一つであるSREBP-1cは、脂肪酸合成を活性化し、多価不飽和脂肪酸によって抑制されますが、そのメカニズムは、まだ十分に解明されていませんでした。
本研究グループは、脂肪酸合成を担うSREBP-1cの新たな切断機構と脂肪酸による切断制御を明らかにしました。この際のSREBP-1cタンパク質の切断は小胞体で起こり、小胞体膜に存在するロンボイドプロテアーゼRHBDL4がSREBP-1cの新規切断酵素であることを見いだしました。この切断は、飽和脂肪酸により活性化、多価不飽和脂肪酸により不活性化され、脂肪酸の種類によるRHBDL4の活性調節が示されました。さらに、VCP複合体が、切断部位によって小胞体膜に切れ残っているSREBP-1cタンパク質を、小胞体から引き抜く新しいメカニズムも明らかにしました。RHBDL4 遺伝子欠損マウスに高脂肪・高コレステロール飼料を摂取させた際の肝臓では、SREBP-1c の切断活性化が抑制され、結果として、脂肪酸合成、多価不飽和脂肪酸の合成と取り込み、リポタンパク質分泌の分泌に関わる標的遺伝子群の発現誘導が阻害され、脂肪肝の病態が改善しました。
今回発見したRHBDL4-SREBP-1c経路は、脂肪酸による脂質ホメオスタシス機構の一つであり、メタボ病態や脂質代謝異常を基盤とした生活習慣病に対する新たな治療戦略の構築につながると期待されます。
PDF資料
プレスリリース研究代表者
筑波大学医学医療系島野 仁 教授
掲載論文
- 【題名】
- Rhomboid protease RHBDL4/RHBDD1 cleaves SREBP-1c at endoplasmic reticulum monitoring and regulating fatty acids.
(ロンボイドプロテアーゼRHBDL4/RHBDD1は小胞体でSREBP-1cを切断し、脂肪酸の感知と制御を行う。) - 【掲載誌】
- PNAS Nexus
- 【DOI】
- 10.1093/pnasnexus/pgad351
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