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物質科学の基礎定理に反する?異方的なホール効果の発見

研究イメージ画像
(Image by Toru Kimura/Shutterstock)
 電流を流す方向によって電流の曲がる方向が変わる新しいホール効果を観測しました。物質科学の基礎定理の一つであるオンサーガーの相反定理によれば、このような現象は起こりえないはずですが、特殊な磁気配列を仮定することで、相反定理と矛盾せずにこの現象を説明できる物理モデルを提案しました。

 磁場中にある導体や磁石に電流を流すと電流と磁場に対して垂直方向に電圧が生じる「ホール効果」や「異常ホール効果」という現象が起きます。物質科学における基礎定理の一つである「オンサーガーの相反定理」によると、磁場や磁化に垂直な面内であれば、どの方向に電流を流しても電子が曲がる方向は変わらないということが導かれます。この定理に反するような現象は、これまで見つかっていませんでしたが、本研究では低温で円錐型の磁気異方性を有するスピネル酸化物NiCo2O4薄膜において、電流方向に依存した異方的な異常ホール効果を初めて観測しました。


 この現象を説明するために、実験的に観測された異方的な異常ホール効果の対称性を、現象論的な観点から考察したところ、クラスター磁気トロイダル四極子と呼ばれる磁気構造が関与していることが示唆されました。そこで、円錐型の磁気異方性により磁気トロイダル四極子構造と強磁性が共存した時には、オンサーガーの相反定理と矛盾せずに異方的な異常ホール効果を説明できる物理モデルを提案しました。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学数理物質系
柳原 英人 教授

物質・材料研究機構(NIMS)マテリアル基盤研究センター
山崎 裕一 主幹研究員

東北大学先端スピントロニクス研究開発センター
小泉 洸生 助教(研究当時:筑波大学数理物質科学研究科)


掲載論文

【題名】
Quadrupole anomalous Hall effect in magnetically induced electron nematic state
(磁気的に誘導された電子ネマティック状態による四極子異常ホール効果)
【掲載誌】
Nature Communications
【DOI】
10.1038/s41467-023-43543-1

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