テクノロジー・材料

TSUKUBA FRONTIER #044:速くて安くてユニークなスパコンを

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計算科学研究センター 教授/センター長
朴 泰祐(ぼく たいすけ)教授

PROFILE

慶應義塾大学電気工学専攻で学位取得後、同大学物理学科助手、その後筑波大学に移り同大学で30年以上研究を続ける。1996年に世界最高性能となった筑波大学CP-PACSシステムの開発で超並列相互結合網を担当、現計算科学研究センター長。専門はスーパーコンピュータシステムとそのアプリケーションプログラミング。高性能計算に関する主要国際会議の運営、および文科省のスーパーコンピュータ開発・運用に関する各種委員を務める。

コ・デザインで生み出すトップレベル性能

私たちが日常的に使っているパソコンを、高性能にして数万台つなげたものが、
スーパーコンピュータ(スパコン)。そう言われると単純そうですが、
より高性能にする技術と、より高速に動かすためのつなぎ方こそが「スーパー」の真髄です。
さまざまな工夫で、幅広い科学技術計算に役立つ唯一無二のスパコン開発に挑みます。

遠くて近いスパコンの世界

自動化技術と法

 誰もが日常的にパソコンを扱う時代ですが、スパコンとなると話は別。特別な研究をする人のための特別な装置だと考えがちです。でも基本原理は普通のパソコンと同じ。ただし、計算をするために特化された計算機を数百〜数万台もつなげて、複数の仕事を手分けして一斉に行います。そうして普通のパソコンでは何年もかかるような計算を1日で解いてしまうのが、「スーパー」たる所以です。
 実は多くの人が、スパコンを知らず知らずのうちに利用しています。その一つ、身近になったAI(人工知能)は、膨大なデータからそれらの関係性をあらかじめ学習し、問いに対して、その中から最も近い関係性と推論した情報を返します。この学習と推論を担っているのがスパコンです。
 計算機をたくさんつなぐほど性能は上がりますが、仕事を分担する計算機同士が通信すると、それだけ余計な仕事や時間が生じます。ですから、解きたい問題に応じて、計算時間と通信時間とのバランスを考えなくてはなりません。しかも、そのバランスはスパコンによって異なります。一言にスパコンといっても、それぞれの特徴があるのです。


これからの主役はGPU

 パソコンの中枢はCPU(中央演算処理装置)で、この他にゲームなどのグラフィックを扱うことに特化したプロセッサとしてGPU(画像演算装置)が搭載されています。一方、スパコンでは、この計算性能が高いGPUを、演算加速装置として画像以外の計算処理にも使います。AIを高速化するにも、もはやGPUは不可欠の存在です。2020年に登場した国内最高性能のスパコン「富岳」にGPUは使われていませんから、スパコン開発のスピードがわずか数年間でどんどん加速していることが分かります。
 筑波大の計算科学研究センターに、2022年12月に新しく設置されたスパコン「ペガサス」は、高性能のGPU120個が120台の計算機に搭載され、最先端のネットワークで接続されています。また、電源を切ってもデータが消えない不揮発性メモリを使っているのも特徴です。このようなGPUと不揮発性メモリの両方を備えたスパコンは世界で唯一。サイズ的にはかなりコンパクトですが、巨大なデータを扱う科学技術計算やAI分野の研究を強力に後押しすると期待されています。

鍵は「コ・デザイン」

 とはいえ、単にハードウェアの性能を上げれば良いというわけではありません。計算すべき課題があって初めて、その力が発揮されますから、ユーザーのニーズを踏まえることが重要です。つまり、スパコン開発には、それを作る人と使う人とが協働して設計する「コ・デザイン」の体制が欠かせません。ユーザーがどんな計算をしたいのか、ハードウェアにどんな特徴があるのかを互いに理解した上で、最適なスパコンの使い方について知恵を絞ることで、トップレベルの性能が得られます。
 筑波大では、スパコン開発とそれを使った研究の両方の機能が一つのセンターに共存しており、コ・デザインを実現できる環境が整っています。日本では9つの国立大学がスパコンセンターを持っていますが、このような研究体制を持っているのはここだけ。このことも、世界的に認められる研究力の高さにつながっています。

ユニークなスパコンセンターとして

 筑波大は、後発で比較的小規模なスパコンセンターだからこそ、ペガサスやその先代のシグナスなど、オリジナリティのある、ちょっと「尖った」ユニークなスパコンの提供を意識しています。全国の研究者に開かれた共同利用・共同研究拠点になっており、利用者の半分以上は学外の研究グループ。このセンターのスパコンを名指しで利用したい研究テーマは多く、学内の研究者であっても、審査に通らなければ使うことはできません。
 今やスパコンはあらゆる分野に必要なツールとなりました。ただ、高性能になるほど、それを動かすための電力も必要で、計算速度だけでなく省エネ性能も重要なスペックになります。実質的には数年程度で世代交代するスパコン本体を、できるだけ安価に作ることも求められます。たくさんの条件をクリアしながら優れた成果を出し続ける。そのプレッシャーをエネルギーに変えて、スパコンの理想形を追い続けます。

筑波大学計算科学研究センター

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素粒子宇宙・物質生命・地球生物環境など多岐にわたる科学の諸領域における超高速シミュレーションおよび大規模データ解析、ならびに超高速計算機システムおよび超高速ネットワーク技術の開発と情報技術の革新的な応用方法の研究を推進するとともに、これらの研究に資する計算機システムの開発や先進的な計算機応用技術の研究を行う。共同利用・共同研究拠点「先端学際計算科学共同研究拠点」として、外部研究者にも利用されている。
スパコン『ペガサス』は2023年11月、日本で最も省エネ性能の高いスパコンにランクされた。

(URL:https://www.ccs.tsukuba.ac.jp/


(文責:広報局 サイエンスコミュニケーター)

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