テクノロジー・材料

水中で疎水性芳香族有機基質を効率よく酸化する手法を開発

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(Image by SergeiShimanovich/Shutterstock)
 中心金属近傍に疎水性環境を有する鉄錯体を触媒に用い、水中で温和な条件下において、疎水性芳香族有機基質を選択的かつ効率的に酸化することに成功しました。この手法は、さまざまな芳香族化合物を有用で無害な物質に変換する方法として、応用が可能と期待されます。

 疎水性化合物への酸化的な官能基導入は、天然資源の有効利用や有害物質の処理及び再利用の観点から、重要な研究課題です。しかし、このような反応を容易に行う手法は、まだ十分に確立されていません。本研究チームは、中心金属近傍に疎水性環境を有する鉄錯体触媒により、メタンを酸化してメタノールを得る手法として、「キャッチアンドリリース」機構を開発しています。今回、この触媒を用いて、温和な条件下で、疎水性芳香族有機基質を選択的かつ効率的に酸化することに成功しました。


 この反応では、水中で疎水性芳香族有機基質を選択的に認識して疎水性環境の中に捕捉し、酸化した後に生成する親水性生成物が水中に排出されます。このメカニズムに基づいて、疎水性環境を有する鉄錯体を触媒として、水溶液と有機基質の二相系において、50 ºCという温和な条件下で、疎水性芳香族化合物の選択的な酸化に成功しました。中でも、ベンゼンの酸化反応では、触媒回転数は3時間で3万回を超え、100%のフェノール選択性を実現しました。さらに、これまで困難とされてきた、アントラセンの選択的二電子酸化や、脂肪族化合物と芳香族化合物の混合物から芳香族化合物のみの選択的二電子酸化も実現しました。この「レコグニション(認識)アンドリリース」機構は、以前報告した「キャッチアンドリリース」機構をさらに進めたものであり、水中における高効率かつ高選択的な疎水性芳香族有機基質の化学変換を可能とする重要な指針になる期待されます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学数理物質系
小島 隆彦 教授


掲載論文

【題名】
Selective Oxidation of Hydrocarbons by Molecular Iron Catalysts Based on Molecular Recognition through Π-Π Interaction in Aqueous Medium
(水溶液中でのΠ-Π相互作用による分子認識に基づく分子状鉄触媒による炭化水素の選択的酸化反応)
【掲載誌】
ACS Catalysis
【DOI】
10.1021/acscatal.3c05118

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