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スズ系ペロブスカイト太陽電池が電子輸送層の改良で高効率化するメカニズムを解明

研究イメージ画像
(Image by Sanaullah Jumani/Shutterstock)
 鉛を含まず環境負荷が少ないペロブスカイト太陽電池として注目されているスズ系ペロブスカイト太陽電池において、電子輸送層の改良でより高い開放電圧が実現されるメカニズムを、電子スピン共鳴法を用いて解明しました。スズ系ペロブスカイト太陽電池のさらなる高効率化を目指す上で重要な成果です。

 ペロブスカイト太陽電池は軽量で柔軟性があり、印刷技術で製造が可能であるなどの特徴を持つため、次世代型太陽電池として注目されています。その中でも高効率なペロブスカイト太陽電池には、鉛系ペロブスカイトが用いられてきました。しかし、鉛には毒性の懸念があるため、幅広い実用化に向けて、鉛を環境負荷の少ないスズで代替したスズ系ペロブスカイトが注目されています。

 スズ系ペロブスカイト太陽電池は、鉛系ペロブスカイト太陽電池と比べてエネルギー変換効率が低いことが新たな課題となっていましたが、炭素原子が球状になったフラーレン(C60)にインデンという炭化水素分子を二つ結合させたインデン-C60二付加体(ICBA)を電子輸送層に用いると、性能が向上することが知られていました。しかし、その詳細なメカニズムは未解明でした。

 ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト構造を持つ結晶を、正孔輸送層と電子輸送層が挟んだ構造をしています。本研究では、電子スピン共鳴法を用いてスズ系ペロブスカイトと電子輸送層の界面の電子拡散を観測し、その界面におけるバンド曲がりを調べました。

 その結果、これまで一般的だったフラーレン誘導体のPCBMを電子輸送層に用いた場合、スズ系ペロブスカイトとの界面において、開放電圧(取り出せる最大電圧)が低下する原因となる電荷再結合が生じやすいバンド曲がりが生じていました。一方、高い開放電圧が得られることが知られているICBAを用いた場合には、電荷再結合の抑制に有利なバンド曲がりに近づくことが明らかになりました。

 本研究で得られた知見をもとにすることで、スズ系ペロブスカイト太陽電池のさらなる効率化への取り組みが進むことが期待されます。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学数理物質系
丸本 一弘 教授

掲載論文

【題名】
Electron diffusion at Sn perovskite/fullerene derivative interfaces and its influence on open-circuit voltage
(Snペロブスカイト/フラーレン誘導体界面における電子拡散とその開放電圧への影響)
【掲載誌】
npj Flexible Electronics
【DOI】
10.1038/s41528-025-00424-5

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