テクノロジー・材料

競馬におけるムチ使用音を自動検出する技術を開発

研究イメージ画像
(Image by Marta Fernandez Jimenez/Shutterstock)
 競馬ではムチ使用の強度や回数に制限がありますが、その確認はレース後に手作業で行われます。本研究では、高音質録音とAIとの組み合わせにより、ムチ使用音を自動検出する技術を開発しました。高周波成分の分析で精度が向上したことで、リアルタイム判定の実現可能性が高まりました。

 競馬では、馬のスピードを上げたり集中させたりするためにムチが使われます。しかし、強すぎる使い方や規定回数を超えた使用はルール違反となり、動物福祉の観点やレースの公平性の観点からも重視されています。現在は審判員がレース後に映像を見ながら手作業で確認していますが、このプロセスには時間がかかり、見落としの可能性もあることから、ムチ使用を自動で検出できる技術が求められていました。

 本研究では、「ムチを振った瞬間に生じる音」に注目しました。ムチの音は一瞬で、とても高い周波数まで含まれているため、一般的な録音では捉えきれません。そこで、192kHzという高音質の録音を使い、音の特徴と時間的な変化を同時に捉える深層学習「畳み込み再帰型ニューラルネットワーク」を用いて、ムチ使用時の音の特徴を学習させました。

 日本国内の24レースから収集した音声データと620回のムチ使用音を学習させた結果、最も性能が高かったモデルでは約70%の精度でムチ使用を自動検出できました。特に、高周波の音を含んだ高音質データを使うことで精度が向上するとともに、ムチ音が「とても高い音」を含むことを初めて科学的に示しました。また、多くの条件で処理速度が音声再生時間を下回ったことから、レース中にリアルタイムでムチ使用を検出できる可能性も示されました。

 本研究成果は、競馬の公正性と動物福祉の観点に基づいた適正なムチ使用推進の一助になると期待されます。今後、より多くのデータ収集や、騒がしい状況でも安定して判断できるための改良などを進め、実用化を目指します。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学システム情報系
善甫 啓一 准教授

掲載論文

【題名】
Whip strike detection using high-sampling-rate audio by evaluating convolutional recurrent neural network configurations and class imbalance strategies
(高サンプリングレート音声を用いたムチ使用音の検出:畳み込み再帰型ニューラルネットワーク構成とクラス不均衡手法の評価)
【掲載誌】
Engineering Applications of Artificial Intelligence
【DOI】
10.1016/j.engappai.2025.113272

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システム情報系