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今村 ことよ氏(TSUKUCOMM Vol.54)

今村さんの写真1

つくばならではのワイン作りを突き詰める

株式会社ビーズニーズヴィンヤーズ 代表取締役
今村 ことよ(いまむら ことよ)氏


-ワイン作りというのはどのような仕事ですか?

 実際にはワイン用のブドウの栽培、ほぼ農業です。プラスアルファで醸造があって、あとはワインの販売ですね。日本では山梨や長野が有名ですけど、実は明治時代に初めてフランスから日本にワイン用のブドウを導入したのが牛久シャトーというワイナリーです。当時の畑はもうほとんど残っていませんが、茨城のワイン作りは歴史があるんです。
 とはいっても、つくば市内でのワイン作りは、ここ10年ぐらいのことです。私も2015年に、筑波山麓の耕作放棄地のようなところを開墾し、ブドウを植えるところから始めました。秋口は収穫が終わってちょっと一息つきますが、12月には剪定作業が始まりますし、醸造もあるので、年中休みがない感じです。
 ワインの出来は、7〜8割がブドウで決まると言われます。あらかじめ目指す味をイメージするのではなくて、その年に採れたブドウに応じて、その味わいが生きるように、発酵のプロセスを管理します。職人的な要素もありますが、サイエンスとして理屈が分かっていれば、うまくコントロールができるんです。



-つくばでワイン作りをすることはいつごろから考えていたのですか?

 農業をする気は全くありませんでしたが、生物学を学びたくて筑波大を選びました。実家が守谷なので、つくばがよかったですね。博士課程まで進み、地元での就職を希望していたんですけど、結局、東京の製薬会社に就職しました。
 もともとお酒は好きだったので、東京であちこち飲み歩いているうちに、ワインにはまって、ワインエキスパートの資格を取ったんです。それでも創薬の仕事がとても面白くてやりがいがあったので、すぐにそれを仕事にしようとは思いませんでした。
 それが、震災の時の混乱を目の当たりにして、このまま東京にいて大丈夫か、と思ったんです。そもそも好んで上京したわけでもないし、将来の社会保障なんかも不安があるから、一生働き続けなくてはならない社会になる。だったら本当に好きなことをやった方がいい、と考えるようになりました。そんな時に、たまたま友人がくれた本に、ワイナリーを始めるために必要な資金なんかが書いてあって、なんとかなりそうだと思ったんですよね。



-どのようにしてワイン作りを学んだんですか?

今村さんの写真2

 いきなりワイン作りというのはさすがに無謀なので、まずは自分が好きな長野のワイナリーに毎月通って、手伝いをさせてもらいました。作業の流れも分かり、ワインと生物学、自分の知識を生かせるビジネスだと思いました。それで、会社を辞め、改めてそのワイナリーで1年半の研修を受けた後に、つくばに戻ってブドウ作りを始めたんです。この大チャレンジを家族も応援してくれました。
 今は、1.5haほどの畑をほぼ自分一人で見ています。今年は、白ブドウ4品種と黒ブドウ5品種で5トンほどの収穫があり、白ワイン2種、赤ワイン2種、それにロゼとスパークリングを1種ずつ作りました。気象災害などもなんとか乗り越え、順調に収量は増えていますが、まだまだブドウに振り回されている感はありますね。
 研究者だった頃も、やりたい研究を存分にできていたので、長時間働くことのストレスはありませんでしたが、農業も同じですね。試したいことはたくさんあるし、自分の裁量で、そこにいくらでも力を注ぐことができることは幸せです。



-これからやってみたいことはありますか?

 とにかく早くワイナリーを建てたい。自分のワイナリーがあれば、醸造でもいろいろな工夫ができますから。ブドウの栽培や醸造も含めて、工芸品として突き詰めていきたいです。
 ブドウはそもそも日本の気候条件にはあまり合わない作物です。ですから、サステイナブルな産業になるためにも、高温多湿な風土に適したワイン用の品種を選ぶことが重要です。茨城は、国内の他の産地よりも気温が高いので、ちょっと煮詰めたような果実味のあるワインができます。その特徴をもっとアピールしたいですね。
 県内のワイン農家は、みんなで情報共有をしています。いつの間にか、その中では自分が一番、栽培技術の知識を持つようになっていますが、だからこそ、県全体の栽培技術が向上するためのハブにならなければと思っています。産地としての評判が上がることは大事ですから。研究者としてのバックグラウンド、海外の文献を読んだりすることに抵抗がなく、広く情報を得ることができるというのが、役立っています。 日本のワインはずいぶん品質が良くなっているものの、まだまだ価格も高いし、生産者の努力を理解してくれる消費者に支えられている面が大きい産業です。そういう人々に応えられるものを作っていきたいです。



-後輩へのメッセージを是非。

 大学時代というのはとても特別な時期。仕事をしなくてもよい上に、自立していろいろなことができます。私自身、サークル活動やアルバイトもずいぶんたくさんして、充実した日々を過ごしました。時間の使い方は人それぞれですが、これからの自分の人生をどう生きるかを考えられる貴重な時間です。勉強はもちろん、遊びにも全力投球して、興味のあることはとことん突き詰め、チャレンジしてください。



今村さんの写真3

PROFILE  いまむら ことよ

1996年 第二学群生物学類卒
2001年 生命環境科学研究科修了
2001年 三共株式会社(現 第一三共株式会社)に入社し、変形性関節症の研究部門に配属。
2007年 趣味で日本ソムリエ協会ワインエキスパート取得。
2008年 臨床開発部門に異動。骨粗鬆症・関節リウマチ領域の治験実施に関わる。
2013年 第一三共株式会社を退職し、長野県東御市のワイナリーにて栽培・醸造研修へ。
2015年 新規就農、筑波山麓にて「ビーズニーズヴィンヤーズ」開園。
2021年 法人への事業移行



色紙

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