生物・環境

TSUKUBA FUTURE #023:美味しく,ムダなく,ヘルシーに!~食品加工の妙案

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生命環境系 北村 豊 教授


 数年前、米粉がちょっとしたブームになりました。小麦粉の代替として、パンや麺、ケーキなどに使われ、そのモチモチ感が人気を呼びました。しかし、小麦粉に比べると調理がしにくく価格も高かったため、広く定着するまでには至りませんでした。米粉以外に米を加工する方法はないだろうか、北村さんは考えました。


特製の石臼マイクロウェットミリングマシンを作動させる北村さんと小山優さんの画像

特製の石臼「マイクロウェットミリングマシン」を作動させる北村さん(右)
と小山優さん(博士前期課程2年)


 生の米は硬いため、そのまま粉に挽くのにはあまり向いていません。そこで、水に浸して少し柔らかくしたものを石うすで挽いてみると、なめらかな液状になることを発見しました。玄米を使えばさらに栄養成分に富んだ素材が得られます。玄米の良さはよく知られているものの、炊き方が面倒な上に、味や食感などの面で必ずしも食べやすい食材ではありません。しかしこの方法だと、玄米も牛乳と同じように加工することが可能です。


 石臼は昔ながらの道具で、乾燥した食材を物理的にすりつぶして粉にします。今でもそば粉や抹茶などを挽くのに使われています。材料の石や臼の表面につける溝のパターン、挽き方などには伝統的に継承されてきた秘訣があるのだそうです。ただしそれが科学的な研究対象になることは、ほとんどありませんでした。北村さんは、伝統の知恵である石臼を米の加工に応用しようと、気仙沼にある専門メーカーに相談して、特注の石臼を作ってもらいました。そうやって試作されたのが、世界で一台だけの、液状にした食材に適した石臼です。


 このオリジナル石臼を使って、玄米の液状加工を試みました。ここで使う玄米は、もともと家畜の飼料用に開発された品種です。味は、コシヒカリなどの銘柄米には及びませんが、タンパクや脂質が多く含まれ、栄養価が高く、多収穫という特長を持っています。減反の代わりとなる新規事業用として生産が推進されている飼料用米ですが、人が食べる加工食品用としても適しています。その玄米を水に浸してから予備粉砕し、水ごと石臼で挽くと、まるで牛乳のような白い液体「ライススラリー」が得られます。この方法は、加える水の量や石臼の回転数を調節することによって、栄養成分を壊すことなく、食材をマイクロレベルの粒子にまで粉砕・液化することができる画期的な技術です。ちなみにライススラリーは、殺菌した米を使うのでそのまま飲むことができます。とてもなめらかで、玄米ならではの香ばしさもあります。もうすぐ、これを原料にしたプリンが登場するそうです。


玄米


玄米

装置の画像

 研究室にある放射性炭素14年代測定用の
全自動試料処理装置


加工されたライスプリンの画像


さらに加工されておいしいライスプリンのできあがり

桑の実アイスの画像

 桑の実アイス。桑の実はブルーベリーよりも
多くのポリフェノールを含んでいる。


 北村さんが加工するのは、食材の食べられる部分だけではありません。皮や殻、種子といった普段は食べない部分や絞りかすなど加工後に取り除かれる部分にこそ、栄養成分や機能性成分がたくさん含まれていたりします。これらを無駄なく活用する方法を研究しています。みかんの皮、ゆずの種子、大豆の胚軸などなど、研究対象は尽きません。最近は、ポリフェノールなど健康促進や美容効果があるとされる成分を含む食品やサプリメントのニーズが高まっており、そうした成分を、より摂りやすい形態に加工する技術にも取り組んでいます。パウダーや錠剤の他、アイスクリーム・ワイン・お茶など、いろいろな試作品を作っていて、その一部は大学祭で販売してきました。


 霞ケ浦で捕れる「ザザエビ」を丸ごと使ったパウダーと錠剤

霞ケ浦で捕れる「ザザエビ」を丸ごと使ったパウダーと錠剤


 学生の頃は、バイオマスの研究をしていました。同じ農産物を扱うといっても、こちらは食べられないものの研究です。卒業後、粉乳やバター、チーズなど乳製品加工の教育・研究に携わったことをきっかけに、食品加工研究の道が拓けました。以来、スイーツから酒、さらには生薬まで、農産物や乳製品を中心に手広く扱っています。

 食品加工には、食材の形状を変えたり保存性を上げるだけでなく、食品のバラエティや嗜好性を高めることで、より多くの人に届くようにするという役割もあります。そのためには、味や品質、安全性はもちろん、加熱による有効成分の分解を防ぐ低温乾燥法、口あたりを良くするための微細化技術、少ないエネルギーで量産加工できるプロセスなど、多面的な検討が求められます。


 成分が変わったり減ったりするのを完全に避けることはできませんが、それでも、加工によって食品は美味しくなります。食材丸ごとの持ち味を損なわず、より付加価値の高い食品づくりに向けてアイデアは尽きません。


文責:広報室 サイエンスコミュニケーター


関連リンク

・北村 豊

・農産食品加工研究室(北村・粉川研)

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