過去300年間の菅平高原の植生を追跡~国立公園化後に草原の減少は速まった~
草原は近年、世界的にも日本国内でも過去に類を見ないほど減少し、そこに暮らす多くの動植物の絶滅が危ぶまれています。草原とその生物多様性の保全対策を講じるには、草原がいつ・どこで・どれくらい速く減少しているか、どれくらい長く存在しているかを知ることが必要になります。 本研究では、長野県上田市の菅平高原が少なくとも1722年には草原に覆われていたこと、それが急速に失われつつあることを明らかにしました。さらに、菅平でも全国でも、国立公園への指定が草原の減少抑制につながっていないことが分かりました。
菅平高原には何千年も前から草原があったと推定されていますが、草原の面積・分布の変遷は不明でした。本研究では、1881年頃に異なる目的で作成された二つの地図を組み合わせることで、当時の草原面積を44.5㎢と推定しました。さらに古い時代の絵図と合わせ、少なくとも1722年以降1881年までを通じて、菅平高原のほとんどが草原で覆われていたことが分かりました。しかし、その草原の88%が2010年までに主に森林化によって失われていました。
菅平高原は1949年に上信越高原国立公園に指定され、草原生態系は特に保全すべき自然環境とされました。ところが、草原の減少は国立公園指定後にむしろ速くなる傾向がありました。全国の事例の比較からも、国立公園の指定は草原の減少を必ずしも抑制していないことが分かりました。草原を維持するには、侵入した樹木の伐採などの手入れが必要です。しかし、国立公園には原生自然を「保護」するための規制があり、手入れが減った可能性があります。
今回の研究成果は、草原などの二次的自然を自然公園に指定する場合、人手を加えることに対する支援も同時に行わなければ二次的自然を保全できない、という問題を提起しています。
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プレスリリース研究代表者
筑波大学生命環境系/山岳科学センター菅平高原実験所田中 健太 准教授
森林総合研究所関西支所森林環境研究グループ
岡本 透 グループ長
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生命環境系山岳科学センター菅平高原実験所