生物・環境

珍渦虫は体が破れて卵を産む〜生殖過程の新仮説を提唱〜

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 珍渦虫(ちんうずむし)は、脳などの集中神経系や肛門などを欠いた、非常に単純な体を持つ海生動物です。その単純な構造は、多くの動物の共通祖先の特徴を残している可能性があると考えられています。そのため、ヒトも含めて、現在生きている動物の起源や進化過程の解明につながる研究対象として期待されています。しかし、珍渦虫はこれまでに世界中で6種しか報告されておらず、また、そのほとんどは採集が困難であるため、実験動物として扱いづらく、研究は進んでいません。本研究チームは、これまでに、珍渦虫の幼生の構造や卵割過程を報告していますが、個体発生や成長の過程は未解明です。


 本研究では、珍渦虫を定期的に採集し調査することで、その繁殖時期が冬季であることを確認しました。そして、人工的に卵や精子を放出させる手法を確立し、放出の様子を観察することで、卵や精子は体表が破れて、その穴から体外に放出されることを明らかにしました。また、これまで、珍渦虫は成熟した卵と精子を同時に持つ雌雄同体な動物であるとされていましたが、これを確認することはできませんでした。さらに、体内受精と体外受精のいずれかも判明していませんでしたが、今回、体外受精であることが示唆されました。これらの知見を総合し、珍渦虫の卵や精子の成熟過程に関する新たな仮説を提唱しました。


 今後、本研究で得られた珍渦虫の生殖に関する新たな知見や技術を生かして、珍渦虫の個体発生過程の完全な解明を目指します。これにより、動物の起源や進化過程に関する新しい情報が得られると期待されます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学生命環境系 下田臨海実験センター
中野 裕昭 准教授

国立遺伝学研究所
前野 哲輝 技術専門職員


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生命環境系
下田臨海実験センター

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