生物・環境

「左右対称な花は動物による受粉の精度を高める」という定説の誤りを実証

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 自然界の花は、系統的に遠く離れた種の間でも、よく似た形態的特徴を持つことがあります。ラン科やマメ科の花でみられる「左右対称性」は、そうした特徴の一つです。左右対称花を訪れる動物は、常に腹側を下にして正面から花にもぐりこみます。この観察から、花の左右対称性は、動物の訪花姿勢を安定させ身体の特定の部位に雄しべや雌しべが触れるようにして受粉の精度を高めるため、さまざまな分類群で何度も独立に進化した、と考えられてきました。18世紀から広く信じられてきたこの定説が、今回、誤りであることを実証しました。


 本研究では、左右対称花の9割以上が、ランに代表されるような、横向きの花である点に注目しました。花が横向きならば、動物がいつも腹側を下に向け正面から花にもぐり込むのは当然であり、動物の訪花姿勢の安定化は、花の対称性ではなく向きが原因であると考えることができます。そこで、花の対称性(左右対称・二軸対称・放射対称)と向き(上向き・横向き・下向き)を網羅的に組み合わせた9通りの人工花で室内実験を行い、対称性と向きがクロマルハナバチの訪花姿勢の安定性に及ぼす影響を調べました。


 すると予想通り、横向きの花では、上向きや下向きに比べ、ハチの訪花姿勢が劇的に安定し、角度のばらつきが6割も減少しました。一方、3種類の対称性のいずれも、訪花姿勢の安定化には全く寄与しませんでした。これは、被子植物でくり返し進化した左右対称花の適応的意義に再考を迫る、注目すべき研究成果です。


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プレスリリース

研究代表者

筑波⼤学⽣命環境系
大橋 一晴 講師

掲載論文

【題名】
Effects of floral symmetry and orientation on the consistency of pollinator entry angle.
(花の対称性と向きが送粉動物の訪花姿勢の安定性におよぼす影響)
【掲載誌】
The Science of Nature - Naturwissenschaften
【DOI】
10.1007/s00114-023-01845-w

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