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急性の心筋梗塞・腎障害と慢性臓器不全への進展に対する新規治療薬を開発

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(Image by Guitarfoto/Shutterstock)
 急性心筋梗塞や急性腎障害では、救命治療が成功しても、慢性心不全や慢性腎不全に進展する例が多く見られます。これらの発症メカニズムとして、マクロファージや好中球が重要な役割を担っていることを発見し、マウスモデルにおいて有効な、新しい治療薬の開発に成功しました。

 急性心筋梗塞や急性腎障害は、臓器への血流の減少や遮断に伴う虚血が原因で、極めて死亡率の高い疾患です。早期に血流を回復させて救命できても、その後、慢性心不全や慢性腎不全などの臓器機能不全へ移行する例が多く見られます。しかし、急性期の組織障害や、これから慢性臓器不全へ至るメカニズムは充分に解明されておらず、有効な治療法もありませんでした。

 本研究では、免疫細胞の活性化を抑制する免疫受容体CD300aに着目し、その遺伝子欠損マウスを用いて急性心筋梗塞や急性腎障害から慢性心不全、慢性腎不全に進展するモデルを作成しました。その結果、CD300a遺伝子を欠損させると、急性心筋梗塞による心機能低下、および、その後の慢性心不全における心臓の線維化(組織が硬くなる)が減少し、心機能も保たれました。また、急性腎障害による腎機能低下も軽度で、慢性腎不全における腎臓の線維化が減少し、腎機能も保たれました。

 そのメカニズムとして、虚血に陥った心臓や腎臓では、CD300aが欠損するとマクロファージによる死細胞の貪食(不要な物質を取り込む作用)が進んで炎症が軽減するとともに、タンパク質SiglecFの発現の低いSiglecF-/lo好中球からの血管新生因子や抗線維化因子の産生が増加し、慢性臓器不全への移行が抑制されることを解明しました。さらに、CD300aに対する中和抗体をマウスに投与したところ、CD300a遺伝子欠損マウスと同様に、慢性心不全や慢性腎不全への移行が抑制されました。

 今後、ヒト化抗ヒトCD300A中和抗体を用いて、ヒトに対する有効性や安全性を検証し、心臓や腎臓の急性組織障害や慢性臓器不全に対する有効な治療薬の開発を目指します。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学 医学医療系
澁谷 彰 特任教授

TNAX Biopharma株式会社
阿部 史枝 研究開発部 アソシエイト リサーチ サイエンティスト

掲載論文

【題名】
CD300a immunoreceptor regulates ischemic tissue damage and adverse remodeling in the mouse heart and kidney
【掲載誌】
Journal of Clinical Investigations
【DOI】
10.1172/JCI184984

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