生物・環境

鞭毛・繊毛の進化の鍵となる単細胞生物アプソモナドの光回避応答を発見

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(provided by Kazuo Inaba)
 動物・菌類からなるオピストコンタ(後方鞭毛生物)の進化的起源を探る上の鍵となる単細胞生物アプソモナドの光回避応答を発見しました。これは、アプソモナドがオピストコンタに近縁である重要な証拠であり、高速振動を行う動物の鞭毛・繊毛が進化してきた道筋を知る上で重要な知見となります。

 地球上に暮らす多くの生物にとって光は重要な因子であり、光応答性は、単細胞・多細胞を問わず、真核生物に共通する基本的な特性です。単細胞生物アプソモナドは、動物・菌類からなるオピストコンタ(後方鞭毛生物)の姉妹群で、オピストコンタの進化的起源を理解する上で極めて重要な二本鞭毛の生物です。オピストコンタでは、動物の視覚や概日リズムなど、多くの光応答が知られています。

 今回、アプソモナドの一種Podomonas kaiyoaeを用いて、アプソモナドとしては初めてとなる光回避応答を発見しました。アプソモナドは、青色光を回避する際に後鞭毛の波形を非対称化させ、同時に細胞を収縮させました。この光回避反応は、細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇によって誘導され、鞭毛・繊毛の動きを担うダイニン/チューブリン運動系、およびミオシン/アクチン運動系の双方が協調して起こりました。繊毛運動による方向転換において後方鞭毛が機能的に優位であるという事実は、アプソモナドが他の真核生物系統ではなく、オピストコンタの姉妹群であることを意味します。

 オピストコンタの祖先は、細胞の後方鞭毛によって移動する生物のグループであり、例えば、精子が卵に受精する時には、鞭毛波を非対称化し高速で方向を変えることができます。しかし、アプソモナドが移動に用いる後方鞭毛は、あまり激しく運動しません。後方鞭毛の非対称化と細胞の収縮を伴うアプソモナドの原始的な運動方向の変換機構は、オピストコンタが高速の鞭毛・繊毛運動を獲得した進化の過程を知る重要な手掛かりとなります。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学生命環境系
稲葉 一男 教授

掲載論文

【題名】
The photophobic response in the apusomonad Podomonas kaiyoae is mediated by coordination of cilia and actin filaments
(アプソモナドPodomonas kaiyoaeの光回避反応は繊毛とアクチン繊維の協調によって起こる)
【掲載誌】
Communications Biology
【DOI】
10.1038/s42003-025-09209-y

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