生物・環境

カルシウムが少ない環境に最適化した紅色硫黄細菌の光合成機構を解明

研究イメージ画像
 紅色硫黄細菌が行う光合成では、光エネルギーを化学エネルギーに変換します。このとき、通常とは異なり、カルシウムが少ない環境でも光合成する種があります。クライオ電子顕微鏡により光を集めるタンパク質の構造を調べ、カルシウムが少なくても光合成ができるメカニズムを明らかにしました。

 光合成細菌が行う光合成は、酸素を発生せず、硫化水素を使って太陽光エネルギーを化学エネルギー(電子)に変換します。この役割は、タンパク質複合体であるコア光捕集反応中心複合体(LH1-RC)が担っています。中でも紅色硫黄細菌の多くは、温泉・海中といったカルシウムが豊富な環境に棲息しており、LH1-RCの立体構造では、光捕集に特化したアンテナタンパク質であるLH1にカルシウムが結合しています。しかし、カルシウム含量の少ない軟水や欠乏状態の水中でも増殖できる常温菌のモデル種アロクロマチウム・ビノサムについては、これまで、光合成にカルシウムは関与していないと考えられており、そのメカニズムは謎につつまれていました。


 そこで、クライオ電子顕微鏡を用いて、本種由来のLH1-RCをアミノ酸が可視化できるレベルで観察したところ、LH1サブユニットのうち特定の6か所にのみ、カルシウムが結合していました。近縁種の好熱菌サーモクロマチウム・テピダムでは、全てのLH1サブユニット16か所にカルシウムが結合しており、アミノ酸配列のパターンに応じてカルシウムが結合できるかどうかが決まっていることが分かりました。このことから、本種は進化の過程で軟水中の微量カルシウムを結合して光合成を行うようなメカニズムを採用し、熱安定性を向上させていることが示唆されました。


 本研究成果は、多くの生物にとって有毒な硫化水素を硫黄へ分解しつつ、淡水中でも光合成を行える種の、高効率な太陽光エネルギー利用への貢献や環境保全への活用が期待されます。


PDF資料

プレスリリース

研究代表者

筑波大学計算科学研究センター
谷 一寿 教授


掲載論文

【題名】
High-Resolution Structure and Biochemical Properties of the LH1-RC Photocomplex from the Model Purple Sulfur Bacterium, Allochromatium vinosum.
(紅色硫黄細菌のモデル種アロクロマチウム・ビノサム由来光捕集反応中心複合体の高分解能構造と生化学的特性)
【掲載誌】
Communications Biology
【DOI】
10.1038/s42003-024-05863-w

関連リンク

計算科学研究センター

創基151年筑波大学開学50周年記念事業