生物・環境

伊豆諸島全体で鳥類の多様性が過去50年の間に低下した ~一部の島に導入された捕食者の影響が海を越えて波及した可能性~

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 伊豆諸島の10島で過去50年間に本土で分布を拡大した鳥類種が島に定着する一方、ほぼ全島で鳥類の多様性が低下したことが分かりました。捕食者(二ホンイタチ)が導入された4島における鳥類群集の劣化が、複数の島を移動する鳥類の減少を通じて伊豆諸島全体に波及した可能性があります。

 海洋島は大陸と一度も陸続きになったことがない島のことで、そこでは独自の生物群集が成り立っています。近年の人間活動は、海洋島の生物群集を変化させており、なかでも捕食者の人為的な導入と環境の改変が深刻な影響を与えていることが、多くの研究によって示されてきました。その一方で、海洋島を含む島の生物群集は、本土から海を越えて分散する生物の移入という自然のプロセスによっても変化します。ところが、人間活動と本土からの生物の移入の影響を統合し、海洋島の動物群集の変化を捉えた実証研究は、これまでありませんでした。

 本研究では、海洋島である伊豆諸島の10島(有人島9島、無人島1島)を対象に、過去(1970~73年)と近年(2016~21年)の鳥類群集を文献調査と実地調査で調べました。その結果、本土で分布を拡大した鳥類種が近年、伊豆諸島にも定着した一方で、ほぼすべての島で鳥類の種数が減少し、鳥類群集の多様性が低下していることを発見しました。また、猛きん類が多くの島から消失しました。一方で、島単位の解析では、群集構造の変化と捕食者(ニホンイタチ)の導入や環境の改変との関係は見出せませんでした。しかし、これは必ずしもイタチの影響がなかったことを意味するわけではなく、先行研究ではイタチが導入された島で無脊椎動物、は虫類、鳥類が減少したことが示されていました。

 つまり、今回明らかになった知見は、イタチが導入された島における直接の捕食や餌資源の減少に起因する鳥類群集の劣化が、複数の島を移動する鳥類の減少を通じて近隣の島に波及し、島しょ全域で鳥類群集の劣化が引き起こされた可能性を示しています。島しょの生物多様性の効果的な保全には、個々の島だけではなく、島しょ全体で保全策を構築する必要があると考えられます。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学生命環境系
飯島 大智 助教

国立環境研究所生物多様性領域
安藤 温子 主任研究員

千葉大学大学院理学研究院
村上 正志 教授

静岡大学学術院理学領域
伊藤 舜 助教

東邦大学理学部
福田 真平 訪問研究員

掲載論文

【題名】
Ongoing collapse of avifauna in temperate oceanic islands close to the mainland in the Anthropocene.
(人新世における大陸に近い海洋島しょで進行中の鳥類相の崩壊)
【掲載誌】
Journal of Animal Ecology
【DOI】
10.1111/1365-2656.70070

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