生物・環境

日本と台湾の天然ヒノキは100万年前に遺伝的に分かれたことを解明

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 天然の日本のヒノキと台湾のタイワンヒノキは、約100万年前の琉球列島の分断により分化したと推定されました。また、日本の集団は拡大傾向、台湾の集団は分断・縮小傾向にあることが推定されました。さらに北限や南限などの集団は特徴的な遺伝的特性を持ち、保全の優先度が高いことが示唆されました。

 ヒノキは優良建築材として扱われ、日本でスギに次ぐ造林面積と素材生産量を誇ります。その天然林は、北は福島県、南は屋久島までに点在しています。一方、台湾にはヒノキの変種として位置付けられるタイワンヒノキが分布し、かつて日本の社寺建築材として大径材が輸入されていた歴史があります。本研究は、遺伝資源として保全すべきヒノキ・タイワンヒノキ天然林の分布域を対象に、全ゲノムを網羅した集団遺伝学的解析を実施し、遺伝的多様性や各集団の遺伝的地域性、分化の歴史を明らかにしました。

 その結果、日本のヒノキ・台湾のタイワンヒノキは遺伝的に明確に区別され、約100万年前(第四紀更新世初期)に分岐したと推定されました。九州の南端から台湾にかけて弓状に連なる島々(琉球弧)はかつて地続き(陸橋)でしたが、それが分断され、両者の地理的隔離が進んだ時期と重なります。さらに、ヒノキは温暖・夏季多雨の環境、タイワンヒノキは寒冷・冬季多雨の環境に適応していることも示唆されました。国内のヒノキ集団は屋久島・本州中部以西・中部以北の3地域で遺伝的に異なっており、それぞれの集団サイズは拡大傾向にあると推定されました。福島(北限)および屋久島(南限)の集団は特に独自な遺伝的特性を持つため、保全の優先度が高いと考えられました。台湾内の集団は遺伝的分化の地理的な傾向が明確でなく、集団が分断・縮小傾向にあることが推定されました。

 日本では現在、ヒノキの種苗移動は林業種苗法で主に気候条件の違いから3区分に分けて管理されていますが、本研究の結果は、遺伝的地域性に基づいて新たに境界の異なる3区分に分ける必要性を示しています。局所的な環境に適応した異なる遺伝グループ間の交雑は、環境への適応度を下げる遠交弱勢を招く可能性があるため、種苗移動の適切な管理による天然林(遺伝資源)の保全が必要です。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学 生命環境系
相原 隆貴 研究員
津村 義彦 名誉教授

掲載論文

【題名】
The historical biogeography of divergence in the relict cypress Chamaecyparis obtusa, and the implications for conservation and management in East Asia.
(ヒノキの集団分化・遺存の生物地理史と東アジアにおける保全・管理への示唆)
【掲載誌】
Ecology and Evolution
【DOI】
DOI: 10.1002/ece3.72240

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