生物・環境

ハチジョウノコギリクワガタが飛翔能力を消失した進化的要因を解明

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(photo by Tai Komoriya)
 ハチジョウノコギリクワガタは、日本に生息するノコギリクワガタ属で唯一飛べないクワガタです。その飛翔能力消失の要因を近縁種との比較から検証しました。その結果、飛翔筋の萎縮が直接的な要因であり、地上歩行への依存が高まったことで、飛翔への進化的選択圧が弱まった可能性を見いだしました。

 昆虫の移動手段としての飛翔は、捕食者回避や採餌、配偶において重要ですが、その能力が失われている種も知られています。しかしながら、とりわけ、種として飛べない昆虫において、飛翔能力がどのように、そしてなぜ失われたのかについては、十分に理解されていませんでした。

 本研究では、日本に生息するノコギリクワガタ属で唯一飛べないクワガタであるハチジョウノコギリクワガタを対象に、その生息地である伊豆諸島の各島に分布する飛翔可能な近縁種との比較を通して、飛翔能力消失の要因を検証しました。その結果、飛翔筋の萎縮が本種の飛翔能力消失の直接的な要因であることが明らかになりました。一方で、翅(はね)の相対サイズの縮小に加え、特にメスにおいて歩行能力の向上が見られました。すなわち、飛翔への依存が低下し、地上歩行への依存が高まったことが、飛翔能力消失を促した進化的要因である可能性が示唆されました。さらに、島の個体群ごとに形態の成長パターンが異なることも分かりました。これらの違いは、島の地理的な位置関係や、種分化の過程と対応しており、島特有の環境の違いが形態進化と飛翔消失に影響した可能性を示しています。

 本研究は、飛翔能力の消失が単なる退化ではなく、島という特別な環境の中で、移動様式全体の変化と結びついて進化した現象であることを示しました。このことは、昆虫がどのようにして「飛ばない生き方」に適応してきたのかを理解する手がかりになると考えられます。

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プレスリリース

研究代表者

小森谷 泰 環境科学学位プログラム(修士課程)2年次

筑波大学生命環境系
横井 智之 准教授

神戸大学大学院人間発達環境学研究科
佐賀 達矢 助教

国立環境研究所生物多様性領域
池本 美都 日本学術振興会特別研究員(PD)

掲載論文

【題名】
Mechanisms of flight loss in Island endemic stag beetle Prosopocoilus hachijoensis (Coleoptera: Lucanidae): a comparative analysis of flight and walking traits among congeners
(ハチジョウノコギリクワガタ(鞘翅目:クワガタムシ科)における飛翔能力消失のメカニズム:近縁種間における飛翔形質および歩行形質の比較解析)
【掲載誌】
The Science of Nature
【DOI】
10.1007/s00114-026-02081-8

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