医療・健康
細菌の薬剤耐性化の原因となる新たな因子とその発現メカニズムの発見
(Image by nobeastsofierce/Shutterstock)
尾花 望 助教
京都産業大学生命科学部
高田 啓 研究員
薬剤耐性菌は私たち人類にとって大きな脅威のひとつであり、これを制御するためには、薬剤耐性機構の理解が必要です。ARE-ABCFは、抗菌薬に対する耐性の発現に関係するタンパク質で、多くの細菌が有しています。しかし、それぞれの生物で見いだされるARE-ABCF遺伝子配列は多様であり、その多様性と薬剤耐性の関連については十分に解明されていませんでした。
ディフィシル感染症(Clostridioides difficile infection: CDI)は、抗菌薬使用などによりディフィシル菌が増殖して常在腸内細菌叢が撹乱され、下痢などを発症する感染症です。本研究グループは、ディフィシル菌が持つARE-ABCF遺伝子(cplR)が、リンコサミド系とプレウロムチリン系の抗菌薬に対する薬剤耐性を媒介することを明らかにしました。また、ディフィシル菌がcplRと同時に、可動性因子であるトランスポゾン上にコードされる薬剤耐性遺伝子ermBを持つことによって、相乗的にリンコサミド系薬剤に対する耐性が上昇することを発見しました。さらにcplR遺伝子の発現が、抗菌薬に応答して誘導されるメカニズムを明らかにしました。CDIは、ディフィシル菌が高い抗菌薬耐性を持つために発生するもので、多くの場合、抗菌薬の投与によって発生し、慢性感染や院内感染の原因となります。特にリンコサミド系抗菌薬の投与によりディフィシル感染症が引き起こされることが示されており、ARE-ABCFおよびその遺伝子発現制御機構を標的とした予防・治療薬の開発が期待されます。
PDF資料
プレスリリース研究代表者
筑波大学医学医療系尾花 望 助教
京都産業大学生命科学部
高田 啓 研究員
掲載論文
- 【題名】
- 【掲載誌】
- Nucleic Acid Research
- 【DOI】
- 10.1093/nar/gkad193